国会質問議事録

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外交防衛委員会(雇用及び職業についての差別待遇に関する条約(ILO第111号条約)の未批准問題)


○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 今日議題のILO百五号条約を批准しますと、ILOの八つの基本条約のうち日本が未批准の条約は、第百十一号条約、雇用及び職業についての差別待遇に関する条約のみとなります。この百十一号条約は、一九五八年に採択されてから六十四年たっておりまして、私と同い年なんですが、加盟国百八十七か国のうち、約九四%に当たる百七十五か国が批准をしております。日本は常任理事国でありながら批准をしておりません。早期批准が求められております。
 ILO創設百周年の二〇一九年には、衆参両院で、八つの基本条約のうち未批准の案件については、引き続きその批准について努力を行うという本会議の決議を全会一致で可決、採択をしております。
 日本国憲法第十四条で法の下の平等を明記し、労働基準法第三条及び職業安定法第三条で均等待遇を定めております。にもかかわらず、なぜこの条約が批准をできていないんでしょうか。

○外務副大臣(鈴木貴子君) ILOの第百十一号条約は、人種、皮膚の色、性、宗教、政治的見解、国民的出身又は社会的出身の七つの事由に基づく雇用及び職業における差別待遇の除去というものを目的としております。
 ILO第百十一号条約の締結の重要性というものは認識をしておりますが、公務員の政治的見解の表明の制限や、肉体的また生理的な差異を考慮して、就業、労働条件について、性に基づく保護を設けること等に係る国内法制と条約との整合性を慎重に検討する必要があります。
 引き続き、このILO第百十一号条約を締結する上での課題について、関係省庁とともに検討を進めてまいりたいと思います。

○井上哲士君 あの採択から六十四年、政府は同じような答弁を長い間繰り返してきました。姿勢が問われると思うんですね。そして、むしろ私は、姿勢は後退していると思います。
 例えば、一九七四年の五月十六日、参議院外務委員会での当時の国際連合局長の答弁、できるだけ早く国会の承認を仰ぐ手続を進めるようにということで、目下鋭意努力しておりますとなっています。同様の答弁は労働大臣も含めて数多くされております。その後、二〇〇四年の第二回ILO懇談会の場でも、政府は、基本条約なので早期に批准すべきとは考えておりますと答弁をしております。しかし、今の答弁は、重要だとはおっしゃいましたが早期批准が必要という言葉はなくて、慎重な検討という大変後ろ向きの答弁に変わっております。
 政府の立場は変わったんでしょうか。

○副大臣(鈴木貴子君) 先ほど申し上げましたように、まさにこの国内法制と条約との整合性というところが非常に重要になってくる、この観点から、関係省庁との協議というものが必要である、このような趣旨で先ほども答弁をさせていただきました。
 しかしながら、この締結、第百十一号条約の締結の重要性というものは、政府としては認識をしております。

○井上哲士君 国内法制との整合性はかつてから問題だったんですね。それでも早期批准が必要だと言っていたんです。その言葉がなくなったというのはどうなのかと。
 じゃ、重要性は変わらないというのであれば、早期批准が必要という立場は政府として変わりないということでよろしいですか。

○副大臣(鈴木貴子君) このILO第百十一号条約に対しての政府の方針というものは基本的に変わりはございません。

○井上哲士君 つまり早期批准が必要だということでいいですね。

○副大臣(鈴木貴子君) 繰り返しになりますが、政府の見解、立場、重要性の認識という点に関しましては変わりはございません。

○井上哲士君 答えていただいてないんですね。これ、大事なんですよ。
 第五次男女共同参画基本計画で、女性差別撤廃条約の選択議定書について、早期締結について真剣な検討を進めると書いてあります。これ実は、この検討の途中でこの言葉を削除するという動きがあったんですね。私も質問しましたし、各方面から意見が出て、政府は、これを削ったら政府の姿勢が変わったような誤解を招くとして、早期締結という言葉を残したという経緯があるんです。
 ですから、変わらないと言うのなら、早期締結が必要だとはっきり言葉で言っていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

○副大臣(鈴木貴子君) 政府の方針に変わりはありませんし、早期締結というスタンスに変わりはございません。

○井上哲士君 早期締結が必要だということは大変私は重要な答弁だと思います。
 是非その立場でやっていただきたいんですが、実際どうなのかと。この条約に抵触する可能性のある法律は何があって、項目としては幾つあると政府としては整理をしているのか、また、この条約との整合性の検討は具体的にどのような体制と頻度で行われているのでしょうか。

○厚生労働省 総括審議官(村山誠君) お答え申し上げます。
 まず御質問の第一点、抵触する可能性のある法律についてでございますが、具体的には、例えば労働基準法第六十一条におきまして、満十八歳未満の年少者を深夜業に使用してはならないと規定する一方で、同条のただし書におきまして、交代制によって使用する満十六歳以上の男性については深夜業に使用することを許していることでありますとか、妊産婦以外の方を含む女性一般に対しても、例えば、特定の危険有害物の取扱いなど一部の業務への就業を制限している規定などがありますほか、また、先ほど副大臣から御答弁ございましたように、公務員の政治的見解の表明の制限を定めている複数の法律などがございまして、これらについて一つ一つ条約との整合性を検討する必要があるものというふうに考えております。
 その上で、委員から、それは幾つかということでございますが、この義務を担保するために廃止、改正が必要か否か、引き続き精査、検討が必要ではございますが、現時点におきまして検討対象となる法律といたしましては少なくとも七本ございまして、また、その下位法令についても精査が必要であるというふうに考えております。
 そして、第三点として、検討体制、またその頻度についての御質問がございました。厚生労働省におきましては、これまで条約と国内法制の整合性の検討のため、例えば御指摘の第百十一号条約も含めました未批准条約につきまして、毎年、先ほど委員からも御紹介のございました労使を参集した意見交換の場であるILO懇談会を開催し、その際には関係省庁とも緊密に連携を取りまして、条約と国内法制との整合性について検討を行い、資料等を提出しているほか、また他国における条約の実施状況等についての調査等を行ってきたところであり、こうした取組についてしっかり進めてまいりたい、このように考えております。
 以上でございます。

○井上哲士君 様々述べられましたけれども、遅々として進んでいないわけですよ。同じ答弁を繰り返されている。
 今国家公務員法との関係を言われましたけれども、日本が、ILO八十七号条約、結社の自由及び団結権の保護条約、九十八号条約、団結権及び団体交渉権条約を批准しながら公務員に労働基本権が確立されていないことこそが問題だと思うんですね。
 ILOは、二〇〇二年に、日本の法令及び慣行、又はいずれか一方が条約第八十七号及び第九十八号の条項に違反しているとして、団体交渉権やストライキ権などの具体的な七項目を挙げて、全ての関係者との全面的で率直、意味のある協議を速やかに行うように勧告をいたしましたし、二〇一八年にも勧告が行われております。
 このILOからの勧告をどう受け止めていらっしゃるんでしょうか。

○内閣官房内閣人事局 内閣審議官(松本敦司君) お答え申し上げます。
 先ほど委員が御指摘されたものも含めまして、ILOから公務員の労働基本権について御指摘をいただいているということは承知してございます。
 一方で、我が国は、条約の批准に当たりましては国内の関係法制との整合性を確保したということで批准をしているところでございまして、今後とも、ILOに対しましては、我が国の法制度や実情等に関しての必要な情報を提供しまして理解を深めていただくことに努めたいと、努めてまいりたいと考えてございます。

○井上哲士君 これ、二〇〇二年に勧告受けて、その後、特にこの自律的労使関係制度に関して必要な措置について、意味のある前進が欠けていると、こういう勧告が、同じようなものが十一回上げられているんです。二〇一八年にも勧告されているんですね。ですから、必要な情報を伝えるとおっしゃいましたけど、その上でこういう勧告を受けているということを、私、ちゃんと自覚する必要があると思いますけれども、いかがですか。

○政府参考人(松本敦司君) お答え申し上げます。
 自律的労使関係制度につきましては、これまでも様々な機会を捉えて職員団体との意見交換というのを実施しているところではございます。ただ、自律的労使関係制度につきましては、多岐にわたる課題や議論があるということでございまして、引き続き慎重に検討を進めてまいりたいと考えてございます。

○井上哲士君 結局、慎重な検討といって先延ばしにしているんですね。
 もう一つ聞きますけれども、母性保護に関する規定も先ほど挙げられました。しかし、日本は、ILO百三十五号条約、母性保護条約が未批准なんですね。母性保護はむしろ国際的に見て遅れているんです。母性保護の強化こそ求められているのに、現行の不十分な母性保護の諸規定が逆に差別になるといって百十一号条約を批准できない、そういう理由には私はならぬと思いますけれども、いかがでしょうか。

○政府参考人(村山誠君) お答え申し上げます。
 ILO条約や勧告が定めます保護や援助に関する特別の措置に関しましては、第百十一号条約第五条第一項において差別待遇には当たらない旨明示されているところでございまして、したがいまして、ILO百八十三号条約において締約国が講じることとされている、例えば女性の産前産後休暇等に関する国内法令の規定に関しましては、第百十一号条約の適用上、問題にならないものというふうに考えております。
 以上でございます。

○井上哲士君 その百八十三号条約を日本は批准していないんですね。これ、元々あったものに女子差別撤廃条約を始めとする国際的な取決めを含めて四十八年ぶりに改定をされたわけでありますけれども、元についても批准しなかったし、この改定の際にも採決に棄権をしているんですよ。そういう、むしろ世界から遅れているのに、それが差別になるといって百十一号条約を批准できない理由にはならないということを申し上げたいと思います。
 日本のジェンダーギャップ指数は、世界百五十六か国中百二十位、特に経済と政治の分野が遅れております。政府の第五次男女共同参画基本計画でも、企業における女性の参画拡大や女性の能力開発、発揮のための支援などについて盛り込まれております。雇用等における男女共同参画の推進も盛り込まれていると。
 こうした男女共同参画の課題、ジェンダーギャップ克服の課題を進めるためにも百十一号条約の批准が必要だと考えますけれども、いかがでしょうか。

○内閣府 男女共同参画局長(林伴子君) お答え申し上げます。
 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保は、ILO第百十一号条約を批准するか否かにかかわらず、働きたい人が性別に関わりなく活躍できる社会の実現に不可欠であります。
 ILO百十一号条約の批准につきましては、国内法制との整合性の観点から、関係省庁、具体的には厚生労働省、内閣人事局、総務省、人事院、外務省において検討が行われているものと承知をしております。
 二〇二〇年十二月に閣議決定をいたしました第五次男女共同参画基本計画におきましては、このILO第百十一号条約も含め、男女共同参画に関連の深い未締結の条約につきまして、世界の動向や国内諸制度との関係を考慮しつつ、締結する際に問題となり得る課題を整理するなど具体的な検討を行い、批准を追求するための継続的かつ持続的な努力を払うとしているところでございます。
 私ども内閣府といたしましては、関係省庁の検討状況を注視していくとともに、雇用及び職業についての男女の差別待遇のない職場づくりに向けて、厚生労働省を始めとする関係省庁とともに取り組んでまいります。

○井上哲士君 慎重な検討といってずっと先延ばしをしてきたことと、今読み上げられた男女共同参画基本計画の批准を追求するための継続的かつ持続的な努力を払うというのは、僕、大分大きな差があると思うんですね。
 国際的にも最下位クラスになっているジェンダーギャップを克服する上でも早期の批准が必要でありますし、慎重な検討という答弁で先延ばしするんじゃなくて、国際水準から遅れた事態を打開するためにも、具体的な検討を促進をして早期批准すべきだということを申し上げまして、質問を終わります。

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