国会質問議事録

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本会議(インフル特措法改定案に対する反対討論)

○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 私は、会派を代表して、新型インフルエンザ特措法及び内閣法の一部を改正する法律案について反対討論を行います。
 本法案は、次の感染症危機に対する政府の体制づくりとして、一元的に感染対策を指揮する司令塔組織である内閣感染症危機管理統括庁を設置しようとするものです。
 統括庁の定員は、緊急時には併任職員を含め体制を強化するとしていますが、平時は三十八人で、行政組織的にも人的にも現行の内閣官房コロナ対策推進室と実質的に変わりがありません。岸田総理の総裁選挙での看板政策であった危機管理庁とのつじつま合わせと選挙向けのパフォーマンスだったと言わざるを得ません。
 次の感染症危機に備えるために必要なことは、形だけの組織いじりではなくて、これまでの政府の取組についての徹底した検証と科学的知見に基づく対策の強化ですが、審議を通じても政府から反省も改善もないことが明らかになりました。
 昨年六月の有識者会議の報告でも、専門家との意思決定プロセスや科学的知見に基づく評価、分析に問題がなかったとは言えないと指摘をされました。
 濃厚接触者の待機期間の短縮について、後藤担当大臣も、分科会での報告が事後になったということは申し訳なかったと答弁をされました。しかし、審議の中で、全国一斉休校、アベノマスク、GoToトラベルキャンペーンの延長なども専門家の意見を聞かずに決定されたことが明らかとなりましたけれども、政府からは根本的な反省は表明されませんでした。
 では、今後改善をされるのか。特措法には、新型インフルエンザ等対策推進会議は、必要があると認めるときは総理に意見を述べることと明記されています。しかし、政府が会議を開かないために、同分科会の尾身会長が昨年八月、記者会見を開いて緊急提言を行ったというのが実情でした。
 ところが、新たに設置しようとする健康危機管理研究機構法案でも、業務を総理や厚労大臣に報告をする、総理や政府対策本部長が必要があると認めるときは意見を述べさせることができるとされているだけです。研究機構は自らの問題意識を持って総理に対して意見を述べることが法律の規定では何ら担保されておりません。
 次の感染症危機に備える上で、第六波以降の感染者の増加、とりわけ高齢者施設での施設内療養者の死亡事案が多数生じた事態の検証と、対策の抜本強化は不可欠です。
 参考人質疑では、21世紀・老人福祉の向上をめざす施設連絡会が行ったアンケート調査の結果が紹介されました。それによれば、三百四十の高齢者施設の中の五三%、百七十九施設でクラスターが発生し、陽性入居者合計三千六百九十六人のうち八七・四%の人が施設内療養を強いられて、職員が治療と看病に当たっています。
 参考人からは、高齢者等の重症化リスク感染者は原則入院のはずなのに、実際は施設内療養が原則になっていたと指摘されました。
 また、入院調整を保健所ではなくて都道府県が一括調整しているのは四十七都道府県のうち四十四に及びます。心肺停止時の蘇生措置拒否の意思表示をしていることを理由に感染者が入院拒否をされた事例もあり、医師の倫理に反するとの声も上がりました。
 質疑において、国の責任で全国の高齢者施設のこうした実態や亡くなった方の詳細を調査して検証することを求めましたが、調査について岸田総理からも明確な答弁はありませんでした。これでは次の危機で同じことを繰り返すことになりかねません。
 病床逼迫を理由に施設での留め置きが行われ、必要な医療にアクセスできず死亡される事案が多数生じた背景には、医師や看護師の絶対数が不足して、平時の医療体制に余裕がなく、緊急時の対応ができなかったことがあります。
 ところが、総理は、医療機関の役割分担、連携、医療従事者の弾力的配置を述べるのみで、人員体制の強化、増員については言及がありませんでした。医療体制の強化なしに、幾ら司令塔を強化すると言っても、危機への対応はできません。
 また、次に備える点でも、施設内療養者を受け入れた高齢者施設への支援も欠かせません。審議の中で、入院を拒否され、やむを得ず施設内療養を受け入れた結果の減収に対し、国や自治体からの支援が全くないことが明らかになりました。
 本来、感染者の医療提供は行政の責任で行われるべきものです。にもかかわらず、施設内療養を受け入れた少なくない高齢者、障害者の社会福祉施設が、デイサービスのフロア等を空けて感染者の療養場所にし、その結果、デイサービスやショートステイ事業等を休止、休業せざるを得ずに大幅な減収となりました。
 感染者が発生した施設に対して、消毒や清掃、時間外割増し賃金など業務を継続するために新たに増える費用、掛かり増し費用に対する支援や補助はあります。しかし、こうした施設内療養に伴う休止、休業による減収への補助や支援は全くありません。
 大阪の社会福祉法人の事例では三か月で六千四百万円の減収。日本重症心身障害福祉協会の調査では、百三十八施設のうち三十四施設が年間二千万円以上の減収、一億円以上の減収になった施設もあるとしています。こうした減収への支援を行うべきです。
 厚労省は、施設内療養者一人当たり最大三十万円の補助を五類移行後も継続するので活用してほしいとしました。しかし、厚労省は、三月十七日になって通知、連絡を出し、四月末までに入所者ごとの連携医療機関の確保等新たな要件を求め、一人でも要件を満たさない人がいれば施設全体を五月以降は補助対象としない旨の連絡を出しました。
 コロナ禍の下で、利用者の命と暮らしを守るために必死で取り組んできた現場の皆さんに責任を押し付け、更に苦労をさせるものです。月末までに要件を満たせない施設を排除する方針は撤回し、五月以降も要件を満たせば補助申請を受け付けるように見直すべきです。
 政府は、新型コロナウイルスの感染法上の扱いを五月八日から季節型インフルエンザと同じ五類に引き下げる方針を決定しました。一方、一昨日の厚労省新型コロナ感染症対策アドバイザリーボードの会合で、脇田座長らの専門家が資料を提出しました。そこでは、新型コロナウイルスと季節性インフルエンザは大きく異なる疫学的特徴を持っており、その状況は変わっていない、全国的に感染者数は徐々に増加に転じている地域が増えてきており、今後、第九波の流行が起こる可能性が高いとしています。
 法律で五類に見直しても、新型コロナの感染力の高さや危険性は下がりません。五類に移行すれば、リアルタイムで感染状況がつかめなくなり、感染対策の遅れが生じます。後遺症問題の深刻さ、新たな変異株も懸念されます。医療体制の強化もなしに拙速な五類移行は行うべきではありません。
 以上、これまでの感染症対策に反省も改善もないままに、形だけの組織いじりにすぎない本法案に反対を表明し、医療体制の強化、高齢者施設への支援を強く求めて、反対討論とします。(拍手)

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