国会質問議事録

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決算委員会

shitsumon201111.jpg・震災をうけた中小企業への従来の枠を超えた支援、被災農・漁業者らの再建意欲を奪うTPP参加の中止、原発事故による牧草被害への補償問題を取り上げた。


井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 東日本大震災から二か月半たちました。今国が被災地や被災住民の皆さんが復興に向けた希望が持てるような政治的メッセージ、そして具体的施策を急いで打ち出すことが必要だと思います。特に、被災地の復興の土台となる中小企業、そして農業、水産業についてお聞きいたします。

 地域に根差す中小企業が被災した施設を復旧して営業に踏み出すということは、単に経営者だけではなくて、雇用や取引を通じて地域社会の再建の土台となります。従来、国は協同組合の施設については支援をしてきましたけれども、個人の経営資産には直接支援はできないということになっておりました。しかし、あの能登半島地震のときに、国が八、県が二の割合で能登半島地震被災中小企業復興支援基金というのをつくって、輪島塗や酒造産業、さらには商店街で被害を受けた店舗や施設への直接の補助を行ったわけであります。国が関与したものとしては初めてだったと思います。

 私は、今回の震災においても、従来の制度の枠組みにとらわれない、二重ローンの問題とか店舗の補修とかいろいろありますけれども、そういう姿勢での取組が必要だと思いますけれども、まず経産大臣の基本的立場をお聞きしたいと思います。

国務大臣(経済産業大臣 海江田万里君)

 井上委員にお答えをいたします。

 委員、今発言のありました従来の慣例にとらわれない思い切った施策ということで、私どもそれに心掛けているところでございますが、基金の問題は、若干今、当時と比べまして金利も大分低くなっておりまして、かなり膨大な資金が必要だということで、今まだ、基金をどうかという御意見があることは私も承知をしておりますが、今基金をすぐにということではございませんで、まず当面、資金繰り対策としましては、これはかなり私どもとすれば思い切った考え方になっておろうかと思いますけれども、限度額を過去最高の、最大規模の五億六千万円に拡大をしました保証制度、東日本震災復興緊急保証ですね。それから、貸付期間を最長二十年、据置期間を最長五年に拡充し、金利を最大で無利子、これ、福島県などの場合は県の御協力もいただいて無利子の制度をつくってございますが、これが東日本大震災復興特別貸付制度という形で、こういう形で思い切った施策を取っているつもりでございます。

 それから、従来、震災時に措置しておりました中小企業組合の共同施設の復旧に対する補助にとどまらない、これは地域経済の核となる中小企業のグループの個社の施設復旧に対する国と県が連携した補助制度なども行っているところでございます。

 さらに、もう一つだけ付け加えますと、今次の通常国会で成立をいたしました財政特例法による中小企業基盤整備機構法の特例により、自らが施設の復旧が困難な中小企業に対して、これは仮設の工場やあるいは仮設の店舗を整備し、自治体を通じて原則無料で貸出しをしております。

井上哲士君

 今答弁の中にありました従来の協同組合の施設等の支援にとどまらず、グループをつくった場合に個社にも支援をするようにしたと、これは大変重要だと思います。先日のこの委員会でも、我が党議員から、是非地方自治体に周知を図っていただきたいと、こう申し上げました。

 同時に、周知とともに、本当に中小企業が使いやすいように、真に役に立つような運用が重要だと思います。グループといいましても、例えば船が全壊した漁業者、それから水産加工業者、それを売る商店、こういうところなどが緩やかなグループをつくった場合でもこれが十分に使えるようにすることが大事だと思いますけれども、そういう運用、柔軟な運用、いかがでしょうか。

国務大臣(海江田万里君)

 これは、この参議院での委員会での御指摘も受けまして、せっかくつくる制度でございますから柔軟な運用を考えなければいけないということでございまして、対象となる中小企業のグループの中で、取引関係等のある企業が集まった任意のグループも対象にしてございます。

 今委員御指摘のありましたような漁業と造船ですね、それから水産加工、それからさらに流通も含めて、こうした地域の特性を生かした企業に対してもこれの利用ができるようにしております。

井上哲士君

 補助スキームを見ますとグループ等ということになっております。どんなに大変でも、自分の会社がなくなったら働く人が町から出ていってしまうということで、歯を食いしばって頑張っていらっしゃる中小企業もいらっしゃるわけですね。そういうところが一社であっても、雇用とか取引で非常に裾野が広いという場合などは、一社であってもこういう制度が利用できるということも大事だと思いますが、この点はいかがでしょうか。

国務大臣(海江田万里君)

 これも手当てしてございます。今委員御指摘のような、地域経済あるいは地域の雇用などに重要な中小企業グループと認められる計画であれば、そのグループに所属をします単独の企業でありましても補助の対象となり得ます。

井上哲士君

 是非、本当に歯を食いしばって頑張っていらっしゃる皆さんへの本当に役に立つような柔軟な運用を重ねてお願いをしたいと思います。

 次に、農業の問題でありますが、被災地東北は日本の食料基地とも言われます。水産業、農業は基幹産業であり、その再建なしに地域の再建、復興はあり得ません。その足かせになるのが私はTPPだと。

 先日、二十六日に開かれました全国農業委員会の会長会議でも決議が行われております。震災により甚大な被害を受けた農林水産業の生産力、競争力は大きく低下した、そのようなときにTPPにより関税を撤廃し、安価な外国産農林水産物の流入に道を開くことは納得できるものではないと、こういう決議でありました。

 十七日の閣議で、当初六月中とされていたこのTPPの交渉参加について先延ばしになったわけでありますが、その閣議決定では、基本方針そのものは変えるものではないとしつつも、震災や原子力災害によって大きな被害を受けている農業者、漁業者の心情、国際交流の推進、産業空洞化の懸念等に配慮しつつ検討すると、こうなっております。ですから、農業、漁業者の心情と言いつつ、一方で交渉参加の可能性も色濃く残していると私は見るんですが、大臣はこの決定に際してどういう主張をされてきたんでしょうか。

国務大臣(農林水産大臣 鹿野道彦君)

 当然のことながら、これだけ大災害を受け、この大震災によって最も被害を受けているのは農業者であり漁業者だと。とりわけ漁業地域においては我が国の、北海道から千葉県までにおける漁港においては約五〇%産出をしていると。そういう農業地なりあるいは漁業地が大きな甚大な被害を受けたということならば、当然このTPPに交渉参加するかどうかというふうなこと等々について判断するのは、やっぱりこの六月末というふうなものについてはこれは無理があるんじゃないかと。

 大きな変化があった、大きな変化があったならば、この変化に対応する必要があると。そういう意味では、この被災地におきまして復旧復興というふうなことがまず最優先である、そういうところに全力を尽くしていく。そしてまた原子力発電の事故によって大変な毎日毎日苦しい生活を送っている人たちのためにも一刻も早く収束をさせるというようなことの見通しを立てていくことも、そこにやはり力を入れていく必要があるんではないかという等々、私は私なりの考え方を主張したところでございます。

井上哲士君

 TPPへの交渉参加が、そういう大きな被害を受けた農業や漁業の皆さんが頑張ろうと、こういうまさに意欲を私は奪うことになると、こういう御認識だと思うんですね。

 ところが、菅総理は二十六日にオバマ・アメリカ大統領との会談で、このTPPへの交渉参加について、震災のため判断が遅れているけれどもできるだけ早期に判断したいと、こう述べて九月の訪米もお約束をされたようであります。私はとんでもないことだと思うんですね。

 今、農業の復興の展望というものを皆さんがまだ持ち得ている状況にはありませんし、原発の被害というもの、それからの復興というものも全くまだ先が見えないと、こういう状況にあるわけですね。そういう中での私はこういう方向というのは、やはり農業者、漁業者の皆さんの復興への意欲を奪うことになると、こう思いますけれども、大臣、いかがでしょうか。

国務大臣(鹿野道彦君)

 総理大臣の発言につきましては私どもも承知をしておりますが、いわゆる総理大臣でございますから、全てのこの分野においての総合的な判断からそういう発言がなされたと思いますけれども、私ども農林水産省というふうな立場からいたしますならば、やっぱり今日のこの被災を受けた漁業者あるいは農業者、その地域の方々、このやはり心情というふうなものも配慮しながらというふうなところにどうしても力を入れざるを得ないんではないかなと、こんな思いをいたしているところでございます。

井上哲士君

 いわゆる総理大臣、よく分かりませんでしたが、本当に私は逆の政治的メッセージを発することになってしまうと思うんですね。この間、衆議院の委員会での、復興特での参考人質疑で宮城県のJA中央会の方が言われていましたけど、営農を再開しても津波や原発、TPPで外国農産物に市場を奪われては安心して営農はできないと、こういうことを率直に言われておりました。これは単に心情だけの問題じゃなくて、現にそう思わせるような現実があるわけですね。

 TPP参加が東北の被災三県にどういう被害を与えるのか。お手元に資料を配付いたしましたけれども、農水省が国境措置の撤廃で農水産物の生産にどのような影響が出るのか試算をされておりますけれども、これらの品目について被災地の東北三県の生産高が全国十位以内にあるものを表にしてみました。

 例えば、米は国境措置の撤廃で九〇%の減少という農水省の試算ですが、生産高は福島県が全国四位で四十四万五千七百トン、宮城県が七位で四十万トン、岩手県が十位で三十一万二千五百トンであります。それから、牛肉は同じく七五%の減少という試算ですけれども、和牛の出荷頭数で見ますと、宮城県が五位で二万千三百三十三頭、岩手県が六位で一万九千六百六十五頭。さらに、六三%減少という試算のサケ・マスでいいますと、岩手が二位で二万四千四百八十七トン、宮城が三位、八千九百九十一トン、福島が五位、九百二十六トンと、こういうことになっているわけですね。それぞれ重大な生産量の減少になりますし、この周りには多くの関連の業種があるわけです。大変な被害なわけですね。

 農水省としては、TPP参加がこの被災した東北三県にどういう影響を与えるのかと、この具体的な問題についてはどのようにお考えなんでしょうか。

国務大臣(鹿野道彦君)

 昨年の十一月に三十三品目について農林水産省としては国境措置を撤廃した場合にはこうですよということを出させていただきましたが、いわゆる東北、今回の東北三県に限った試算というのは行っておりません。

 しかし、今回のこの状況を踏まえて申し上げさせていただきますならば、この東北三県は農林水産業の産出額では全国の約一割を占めておると、こういうことからいたしますならば、国境措置が撤廃されたというような、もしもそういうふうな状況になった場合には地域経済への影響は少なからずあるものであるというふうなことは認識をいたしているところでございます。

井上哲士君

 少なからずというよりも、甚大なものがあるわけですね。

 ただ、今回の議論を見ておりますと、従来、政府も開国と農業の両立と言いながら大規模化とか集約化ということを言ってこられました。いろんな議論を見ておりますと、今こそ大規模化のチャンスとか、それを復興モデルにしてTPPなどの貿易自由化も推進できると、こういうようないろんな議論が様々な場所でされております。私は、現場の農業者がどうやって復興していくかということを悩んでいるときに非常に不見識な議論だと思うんですね。

 今必要なのは、マイナスの出発となる農業者、漁業者の皆さんにこれまでにない国の支援を行っていくことが必要だと思うんですね。むしろ、そうした人々に大規模化、集約化ということを押し付けることは廃業に追い込むことになると、こう思いますけれども、大臣、いかがでしょうか。

国務大臣(鹿野道彦君)

 今先生御指摘のとおりに、復興に向けた考え方というふうなものについては復興構想会議におきましても御議論をいただいておるわけでございますけれども、やっぱり国が上から押し付けるというようなことじゃなしに、地域の人たちがどういう考え方を持っているか、こういう意向というものはやはり尊重していく、これは総理大臣も基本的な考え方として申し上げているところでございまして、国と地方公共団体というものが連携をしながら取り組んでいく必要があるものと思っております。

 そういう意味で、どのような農地利用がこれからの復興モデルとしてふさわしいかどうか、どういう農業の担い手を育てていったらいいか、これは農業だけでなしに漁業者においてもそのような考え方を持って、地域の方々の意向というものを十分踏まえながら、今後、関係省庁とも連携をして取り組んでいかなきゃならないことだと思っております。

井上哲士君

 私は、地域の方々の意向を考えるならば、交渉参加ということにはなり得ない話だと思うんですね。

 今、大規模化をして、あの地域で、そしてそれをモデルにしようという議論もありますけれども、大災害によって可能になるそういう大規模化というのがどうして全国のモデルになり得るのかということだと思うんですね。被災地で幾ら集約化をしてもアメリカやオーストラリアの規模には全くかなわない状況にあるわけでありますし、むしろ、今国民の中では、食料の自給率を上げることが大切だとか、そして地域の中で支え合うような社会、これの大切さということを改めて確認をしている、そういう中で農業の在り方ということを考えるときだと思うわけで、上からの押し付けはいけないと言われましたけれども、私は、TPP参加による国境措置の撤廃というのは究極の上からの押し付けになると思います。これの参加はやめるべきだということを強く申し上げておきます。

 最後、一点お聞きしておきますが、福島第一原発の事故による農産物の被害は重大でありますが、その中で、酪農家の皆さんです、出荷停止によって飼料を給与しながら原乳の廃棄を続けて、避難に当たっては殺処分など耐え難い苦悩の中にあると。

 また、今一番草の収穫時期を迎えておりますけれども、草地の土壌汚染に加えて、牧草から高濃度の放射性物質が検出をされて収穫できないという事態になりまして、放牧もできなくなる、代替の飼料の確保やその費用に大変苦慮をされておりますけれども、この牧草の汚染についての現状と対応についてまずお聞きしたいと思います。

副大臣(農林水産副大臣 筒井信隆君)

 牧草が肉やあるいは牛乳にどの程度移行するか、これらを研究した結果、牧草の暫定基準値を設定したところでございます。その結果、今、乳牛やあるいは出荷間近の肉牛については、七県の牧草に供給を自粛するよう求めております。そして、育成牛あるいは繁殖牛に関しては、福島県の一部の牧草について供給を自粛するよう求めている、こういう状況でございます。

 引き続いて、この移行係数等については農水省としても更に厳密に研究する、この体制を取って今いるところでございます。

井上哲士君

 この代替飼料に要した費用など、この牧草の汚染被害に対する補償がこの第一次指針の中に入っていないということで大変不安の声も上がっているわけでありますが、第二次指針がそろそろ出るころだと思いますけれども、これはきちっとその中に盛り込まれると、こういうことでよろしいでしょうか。

国務大臣(鹿野道彦君)

 今お話のございました件につきましては、これまでも原子力損害賠償紛争審査会におきまして牧草の利用自粛の状況等について説明を行ってきたところでございます。

 今回の原子力発電所の事故に伴いまして畜産農家に生じた損害については、適切なる賠償が行われるよう、第二次指針の作成に向け、引き続き私どもは審査会に強く働きかけていきたいと思っております。

井上哲士君

 終わります。

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