国会質問議事録

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政府開発援助等に関する特別委員会(ODAプロサバンナ開発問題)

○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 モザンビーク共和国のフィリッペ・ニュシ大統領が先週訪問されまして、同国と日本の共同声明が発表されました。この中で、モザンビーク政府が、日本、ブラジルの支援を受けて大規模農業を導入する熱帯サバンナ農業開発事業、プロサバンナについて協力を確認をしております。この事業についてお聞きいたします。
 まず、外務大臣にこのODAの基本方針について伺います。
 二〇〇三年のODA大綱では、基本方針の三つ目に公平性の確保が掲げられております。「ODAの実施が開発途上国の環境や社会面に与える影響などに十分注意を払い、公平性の確保を図る。」としております。ところが、二〇一五年に改定された政府開発協力大綱の基本方針からはこの公平性の確保というのはないわけでありますが、これはなぜでしょうか。
○国務大臣(岸田文雄君) まず、結論から申し上げますと、二〇〇三年のODA大綱における公平性の確保という方針、これは新しい開発協力大綱にも引き継がれております。
 二〇〇三年のODA大綱を見ますと、基本方針として、公平性の確保、御指摘になった公平性の確保が明記されているわけですが、その内容としまして、社会的弱者の状況ですとか貧富の格差、地域の格差を考慮するとともに、環境や社会面に与える影響などに十分注意を払い、公平性の確保を図るとされています。さらには、男女共同参画にも触れているわけですが、こういった内容は、この二〇一五年の新しい開発協力大綱の中にも実施上の原則として全て盛り込まれています。具体的には、実施上の原則としてずっと並んでおりますが、エ、開発に伴う環境・気候変動の影響、オ、公正性の確保・社会的弱者への配慮、さらにはカ、女性への参画の促進、このように記されています。
 要は、この二〇〇三年のODA大綱に盛り込まれた公平性の確保の中身、全て新しい開発協力大綱の中にも盛り込まれているということであり、結果として、その方針はしっかり引き継がれていると考えております。
○井上哲士君 しっかり引き継がれているということでありました。
 一方、JICAが二〇一〇年に策定をした環境社会配慮ガイドラインは、このODAの実施が開発途上国の環境や社会面に与える影響などに十分注意を払い、公平性の確保を図るというODA大綱を引用して、理念として掲げております。
 今の答弁にありましたように、開発協力大綱の策定以降もこのガイドラインでの理念は堅持をされていると、こういうことでよろしいでしょうか。
○参考人JICA理事長(北岡伸一君) 委員御指摘のとおりでございます。
○井上哲士君 そこで、そのプロサバンナ事業における環境社会配慮というのがどうなっているかということについてお聞きをいたします。
 この事業については、小規模農家を中心にした地域住民から、自立を奪われる、環境破壊も進むなど、事業の中止を求める声が上がって、全国農民連合や市民団体によってプロサバンナにノーキャンペーンもつくられてまいりました。その中で、JICAも出資して、プロサバンナ・コミュニケーション戦略書が作られておりますが、この策定の時期と目的、受注者、JICAの支出した費用は幾らでしょうか。
○参考人JICA理事(加藤宏君) お答え申し上げます。
 コミュニケーション戦略でございますけれども、まず策定の目的でございますが、様々なステークホルダーに対しましてプロサバンナ事業に対する正しい理解を促すということでございました。策定の時期は二〇一三年の九月、契約の受注者は現地のコンサルタントでございます。支出は全体で八十五万九千九百五十メティカル、これはモザンビーク通貨でございますが、御参考までに日本円に換算いたしますと約二百八十五万円でございます。
○井上哲士君 具体的な会社名はどこでしょうか。
○参考人(加藤宏君) 失礼いたしました。
 契約の受注者はCVアンドAという会社でございます。失礼いたしました。
○井上哲士君 この策定は市民社会に説明なく進められて、戦略書は二〇一六年まで市民社会には開示をされませんでした。それに対して二〇一六年の八月二十七日に三か国の市民社会が抗議声明と公開質問状を出しております。
 この声明では、この戦略書の中にプロサバンナ事業に反対する市民社会組織の影響力を弱めるための方策が書かれているということに抗議をしております。それによりますと、戦略書にはこう書かれています。プロサバンナがコミュニティーとの直接的なコンタクトを行うことによってコミュニティーあるいは農民を代表するこれらの組織の価値や信用を低めることができる。それから、モザンビーク市民社会組織の重要性を奪うことによってモザンビークで活動する外国NGOの力をそぐことができる。さらに、その結果として、これらの組織からのメディアへのコンタクトも減ると。まさに反対運動の力を弱めるという、こういう項目が並んでいるわけですね。これは、先ほど確認をした公平性の確保、環境社会配慮には反しているんではないでしょうか。
 JICAはこういうことを政府と協力して進めているということですか。
○参考人(加藤宏君) 御説明申し上げます。
 まず、このコミュニケーション戦略書でございますけれども、先ほど申しましたように、CVアンドA社が作成いたしましたものでございまして、私ども、これを参考とさせていただいております。JICAとしての見解を示すものではないということを申し上げたいと思います。
 また、今先生御指摘のいろいろな点が指摘されましたけれども、私どもは市民社会の影響力を弱めるといった活動はこれまでも行っておりませんし、また、これからも行うつもりは元々ございません。そのことを申し上げたいと思います。
 参考までにですが、これまでにやってまいりましたことは、具体的には、現地でこのプロジェクトに対して協力、理解をいただくための広報素材の作成、その他のものをやっていましたということでございます。
 以上でございます。
○井上哲士君 この公開書簡では、現実にJICAがモザンビークの市民社会に直接介入をしているとして、二月十七日にモザンビークでプロサバンナにノーを表明する農民と社会組織が公開書簡、プロサバンナにおけるJICAの活動に関する抗議文を北岡理事長に対して送っております。この中で取り上げているのがメディアへの介入なんですね。
 この戦略書にはメディア対策も盛り込まれているわけでありますが、昨年末、これまでプロサバンナを批判的に報じてきた現地の独立系メディアに、賛成派の市民団体が全国農民連合など反対組織を名指しして批判する記事が掲載をされました。そして、この記事は年明けに、この記事は日本大使館主催の旅行の一環で執筆されたものですという文章が加筆をされたとされておりますが、実際、外務省に聞きますが、日本大使館は十二月にメディアを案内した旅行を行ったのではありませんか。
○政府参考人 外務省国際協力局長(山田滝雄君) お答え申し上げます。
 日本の開発協力につきまして、相手国含めた国際社会に積極的に戦略的に発信することは重要でございます。こうした考えに基づきまして、外務省としましては、海外において日本の開発協力についての理解を促進する広報活動の一環として、在外公館が中心となって現地の報道機関に対して日本の開発協力の現場の視察を企画するプレスツアーを実施しておりまして、平成二十七年度から六十か国以上で実施しております。御指摘のプレスツアーもその一つでございます。
 このプレスツアーは、TICADのプロセスにおいて主要回廊と位置付けられておりますナカラ回廊沿いの開発協力案件全般について視察し、この地域での日本の対モザンビーク協力について広く認識していただくと、これを目的として昨年十二月に実施したものでございます。
○井上哲士君 通常行っていると言われますけれども、このモザンビーク・プロサバンナの場合に、市民社会の間に大きな意見の対立があるんですね。その中で、一方的にこういうことを行って、現にその結果としてこういう記事が出ていると。
 私は戦略に基づく市民分断ではないかと思わざるを得ないわけでありまして、この記事の中に繰り返し登場するアントニオ・ムツア氏、彼はプロサバンナを賛美してこの反対運動を攻撃しているわけでありますが、このムツア氏が最高責任者を務めるNGO、ソリダリエダーテがこのプロジェクトに関わってJICAとコンサルタント契約をしていると思います、市民社会調整メカニズム関与プロジェクトに関して。この契約金額とこれまでに支払われた金額はどうなっているでしょうか。
○参考人(加藤宏君) お答え申し上げます。
 ソリダリエダードとの契約金額でございますが、当初、二十万六千百三十九ドル七十五セントでございましたが、その後、契約変更がございまして、最終的に契約金額は二十三万五百六ドル七十一セントとなりました。支払金額は以上でございます。(発言する者あり)支払金額は十万三千七百二十八ドル一セントでございます。
 失礼いたしました。
○井上哲士君 モザンビークのNGOは国内法で非営利団体とされております。ところが、契約書によれば、契約金のうち六〇%が報酬で、その中にはコンサルタント利益も含まれているとされておりますが、こういう利益をもたらす契約をするということはモザンビークの国内法に反するんではないかという指摘がありますが、いかがでしょうか。
○参考人(加藤宏君) お答え申し上げます。
 ソリダリエダードという組織は、モザンビークの法律に基づきまして、活動目的等をモザンビーク当局に届け出、認証を受けております。JICAとのソリダリエダードとの契約に基づく業務につきましても、その届出事項の範囲内で実施されているものと私どもは認識をしております。
 そして、利益の話でございますけれども、JICAとソリダリエダードとの契約において計上されている利益がございますけれども、具体的には人件費、管理費、そして活動実費といった活動に必要な経費でございまして、商業的利益としての費用を支払うものではないというふうに認識をいたしております。
 以上二点、すなわちソリダリエダードがモザンビーク当局に対して届け出た業務範囲の中に入っているということ、そして商業的利益とみなし得るものが含まれていないということに照らしまして、本件契約につきまして国内法上特段の問題があるとは認識をしておりません。
 以上でございます。
○井上哲士君 あの契約書ではコンサルタント利益となっているわけですね。
 いずれにしても、モザンビークの市民社会などは様々な反発をしているわけで、公平性が不可欠であるコンサルタント契約をこうした人物のNGOと契約するということ自身が問題だとされております。
 この人物とNGOが実施することになっていたのが、コミュニティーコンサルテーションであります。二月二十七から三月七日まで二百七か所で開催されることが告知されておりましたが、反対派の市民が参加しない中で開かれるならば一層分断を広げるという懸念がありました。これについては延期をしたと聞きましたけれども、その理由及び延期後の開会の予定などはどうなっているでしょうか。
○参考人(加藤宏君) お答え申し上げます。
 まず、このコミュニティーコンサルテーション、先ほど先生御指摘の点でございますけれども、この農業開発マスタープラン策定のプロセスの一環といたしまして、マスタープランのドラフトに対しまして御説明をし、かつ、農業開発に関する地域住民、農民の意見、そしてニーズを広く聞き取るものとして企画しているものでございます。プロサバンナ事業対象地域の現地市民社会組織が市民社会調整メカニズムというものをつくりまして、これを実施することが計画されていたところでございます。
 他方、日本政府及びJICAは、このコミュニティーコンサルテーションへの参加をまだ拒んでいらっしゃる反対派の方がいらっしゃるということもありまして、それらの方々の意見も聞き、より丁寧な対話を進めることが必要であると考えまして、モザンビーク農業食糧安全保障省に対しましてコミュニティーコンサルテーションの延期を促したということでございます。その結果、三十日間延期されることとなったと承知しております。
 今後の予定につきましては、現地市民社会、農民団体と丁寧な対話を進めながら、モザンビーク政府とも密接に連携しながら検討してまいる所存でございます。
○委員長(野村哲郎君) 時間が来ておりますので、まとめてください。
○井上哲士君 冒頭言いました共同声明では対話の継続ということが書かれておりますが、今、様々申し上げられましたように、公開書簡では市民分断が厳しく指摘をされているわけでありまして、この書簡にも真摯に対応し、市民分断の活動はやめること、合意のない事業は中止をすること、そのことを求めまして質問を終わります。
 ありがとうございました。

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