○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
本法案は、いわゆるホストクラブにおいて遊興や飲食をした女性客が、売掛金等の名目で多額の債務を負担させられ、ホストやホストクラブ経営者から、その支払のために売春することや性風俗店に勤務することと等を要求されるという、いわゆる悪質ホストクラブをめぐる事案に対応するものということとされております。
国家公安委員長にまず基本的認識を聞くんですが、この多額の債務を負担させられ、その支払のために女性が売春をさせられたり、性風俗店に勤務させられるこの事態というのは、まさに女性に対する重大な人権侵害だと、この点のまず基本的認識をお聞きしたいと思います。
○国務大臣(坂井学君) 悪質ホストクラブが利用客である女性に売掛金等の名目で多額の債務を負担させ、その返済のために売春や性風俗店での稼働等に追い込む行為は、女性を搾取する極めて悪質かつ深刻な問題と認識をしております。
そのため、まあその裏にもトクリュウ、犯罪グループの関与も見えるところでございまして、対策は急務ということで、この度、本改正案を提出したところでございまして、女性の被害を未然に防止するための所要の規制を設け、ビジネスモデルを解体しようというところでございます。
○井上哲士君 女性を搾取をするということをなくさなくてはいけないと、こういうことでありますが。
ある被害者の例を紹介いたしますが、十八歳のときにホストに多額の借金を負わされて、その支払のために売春等をさせられる被害に遭った現在二十代の女性ですが、そのきっかけがやっぱり歌舞伎町でのホストクラブのキャッチ、客引きだったというんですね。
彼女は、この実父の性的虐待、そして家出した先での買春、買う方の買春男性からの性加害等々の被害に遭って、居場所をなくしていたと。当然、所持金もほとんどなかったと。しかし、もうキャッチに執拗に付きまとわれて、断ったら何をされるか分からず怖かったということで、このホストクラブに引き入れられたと。ホストから結婚しようと言われて、自分が必要とされていると思い込まされる中で、お金なら心配ないと、仕事を紹介すると押し切られて、歌舞伎町の性風俗店での管理売春をあっせんされて、ホストに二年間で数百万円を搾取されたと。そのホストは売上げが店でナンバーワンと言われたそうですが、これほとんど彼女によるものだったというわけですね。
この女性はこう言われているんですよ。このキャッチに付きまとわれたときに、あのとき行政や警察が守ってくれたら被害に遭わなかったかもしれないと、こう言われているんですね。
現行のこの風営法でも可能なこうした悪質な客引きの取締りが十分に行われてきたのかと、この点、国家公安委員長の認識いかがでしょうか。
○国務大臣(坂井学君) 警察におきましては、客引き行為につきまして、風営適正化法や条例を活用して積極的に取締りは行っております。
具体的には、風営適正化法で規制されている客引き、付きまとい等について、令和五年中で百五十三件、百九十四人、令和六年中で百二十四件、二百人を検挙しており、ホストクラブに関連してでは二年間で十九人の客引きを検挙していると承知をいたしております。
引き続き、積極的なこの取締りを徹底するよう指導してまいりたいと思っております。
○井上哲士君 先ほど紹介した女性の被害、彼女の言葉にあるように、あのとき行政や警察が守ってくれたら被害に遭わなかったかもしれないと、こういう声が現にあるわけですよね。
今いろいろ御答弁ありましたけれども、やはり現行法での対応ができることが十分できていなかったんじゃないかと。この認識がなければ、今回の法改正の内容も生かされないんじゃないかと思うんですね。その点の認識を是非持っていただきたいと思うんですが。
その上で、この法案は、悪質ホストクラブ問題に対応するために、第二十二条の二を新設して、客に対し、注文や料金の支払等をさせる目的で威迫することや、威迫や勧誘によって料金支払のための売春、性風俗店勤務、AV出演等の要求について、罰則のある禁止行為としております。
一方、料金に関する虚偽説明、客の恋愛感情等に付け込んだ飲食等の要求、客が注文していない飲食等の提供については、第十八条の三を新設して、遵守事項に追加するとしておりますけれども、なぜどちらも禁止行為ということにしなかったんでしょうか。
○政府参考人(檜垣重臣君) お答えいたします。
本改正案によりまして、接待飲食営業を営む風俗営業者の遵守事項といたしまして追加されます料金に関する虚偽説明等につきましては、直接罰則で履行を担保し、違反があれば刑事事件として捜査、訴追するよりも、第一次的には、指示等の行政処分により弾力的かつ迅速な違反の是正を行う方が効果的であるというふうに考えております。
もとより、当該行政処分に違反した際には、許可の取消しや罰則の適用といったより厳正な措置を講じることで被害の拡大防止を図ってまいりたいと考えております。
○井上哲士君 確認します。この、だから、遵守事項というのは、この許可を受けている事業者に対して適用されると、こういうことでよろしいですね。
○政府参考人(檜垣重臣君) 御指摘のとおりでございます。
○井上哲士君 つまり、今のこの風営法は、風俗営業の健全化、適正化を目的にしておりますが、このキャバレーやスナックなどの接待飲食等営業の風俗営業は許可制となっておりますが、一方、性交類似行為をサービスとして提供するいわゆるソープランド、ファッションヘルス、デリバリーヘルス等の性風俗関連特殊営業は許可制よりも容易な届出制にしていますが、この区別はなぜなんでしょうか。
○政府参考人(檜垣重臣君) お答えいたします。
風俗営業につきましては、健全に営まれれば国民に憩いと娯楽を与える有用な営業であると考えられますが、その営業方法や業務内容が不適正なものとなれば、風俗上の問題を引き起こす可能性がありますことから、許可制として不適格者を排除するなど、所要の規制と業務の適正化措置を行うこととしているものでございます。
他方、性風俗関連特殊営業につきましては、性を売り物にする本質的には不健全な営業であり、業務の適正化や営業の健全化にはなじまないものであり、こうした営業を許可制によって公に認知することは不適当と考えられることから、届出制によりその実態を把握した上で、広範な営業禁止区域、地域を設置するなど、厳格な規制を設けるとともに、違反があれば厳正に対処しているというところでございます。
○井上哲士君 今答弁ありましたように、この性風俗関連特殊営業というのは性を売り物にする本質的に不健全な営業だから、国として許可を与えるのは適切でないというお話なんですね。
そうであれば、許可制よりも容易な届出制にして認めるということではなくて、そもそも禁止をするべきではないのかと考えますが、国家公安委員長、いかがでしょう。
○国務大臣(坂井学君) 風営適正化法における性風俗関連特殊営業の位置付けについては、政府参考人から今説明があったとおりでございますが、違法行為である売春を業とする営業が法的に認められないことは言うまでもなく、性風俗関連特殊営業は売春を行わないことを前提に営業が認められているものでございます。
一方で、仮にこの性風俗関連特殊営業で認められる性的好奇心に応じてその客に接触する役務の提供を一律に禁止しようとすれば、それは新たな規制の導入となることでございまして、これにつきましては十分な議論が必要になるものと考えております。
○井上哲士君 実際に行われていれば駄目だというお話ですけど、ただ、この届出制でその実態を把握すると言われるわけですけど、こういう性風俗関連特殊営業で売春行為が行われているというのは周知の事実でありますし、様々ないろんな媒体を通じてそのことを売り物にしたりもしているわけですよね。それなのに、届出をすれば事実上営業は認められているというのは、私、これでいいのかと思うんですけれども、改めてどうでしょうか。
○国務大臣(坂井学君) 今も申し上げたところでございますが、これらの、現在ですね、これらの営業や業態で働いている方等にも多大な影響を及ぼすものであり、また、国民の間でも正直様々な御意見があるものと考えられておりまして、多様な意見や立場の方々を含めて十分な議論が必要となるものと認識をしております。
いずれにせよ、この性風俗関連特殊営業において違法な行為があれば厳正に対処するよう、引き続き警察を指導してまいりたいと思っております。
○井上哲士君 今回の法改正で、先ほども議論になりましたけど、性風俗関連特殊営業に対する規制として、性風俗店への女性のあっせんの際に、スカウトやホストへの紹介料の支払を禁止をするわけでありますが、改めて、この目的はどういうことでしょうか。
○政府参考人(檜垣重臣君) お答えいたします。
性風俗店を営む者がスカウト等から求職者の紹介を受けた場合にその対価を支払う、いわゆるスカウトバックにつきましては、性風俗店を営む者が、スカウト等に対してスカウトバックを行うために、女性に対してより売上げを伸ばすよう求めることで売春を助長する、また、性風俗店における稼働の対価がスカウトバック分を差し引いたものとなるため、女性の手取り分が少なくなり、女性が手取り分を増やすために売春を行いやすくなるといった問題がございます。実際、警察として、スカウトバックが行われている性風俗店におきまして売春が行われている事案を把握しているところでございます。
このように、性風俗店を営む者からのスカウトバックにつきましては、性風俗店において売春が行われることを助長するものであり、性風俗店等において生じやすい売春等の違法行為を防止することを目的とする風営適正化法におきまして対処すべき事項であると言えるため、本改正案におきまして、性風俗店からのスカウトバックを禁止することとしたものでございます。
○井上哲士君 先ほども申し上げましたけど、違法行為があればとおっしゃるんですが、実際行われているというのは本当周知の事実ですよね。
そういうその今の売春防止法の下で、この性交類似行為をサービスとして提供するこの性風俗関係特殊営業を届出だけでも合法化をしていると、それが風営法なわけですが、こういう事実上性売買を容認している現在の法制度に指一本触れずに、このスカウトバックの禁止だけで売春の助長を防ぐといっても限界があるんじゃないかと思いますけれども、改めていかがでしょうか。
○政府参考人(檜垣重臣君) お答えします。
先ほど大臣も御答弁されましたけれども、では、こういった、今、性風俗関連特殊営業等の営業を全面的に禁止するということにつきましては、国民の間でも様々な御意見があると思われますので、多様な意見や立場を含めて十分な議論が必要となってくるものと考えております。
また、風営法を所管している我々といたしましては、性風俗関連特殊営業について違法行為があれば厳しく取り締まってまいりたいと考えておりますし、今回風営法に導入いたしますいわゆるスカウトバック規制はしっかりと活用しまして、こういったスカウト行為が行われないようにしていきたいと考えております。
○井上哲士君 やっぱり大本には売春防止法があると思うんですね。法務省来ていただいていますけれども、売春防止法は、この売春を性交行為のみに深く定義し、売春そのものではなくて、その勧誘やあっせんを処罰するけれども、売春の相手方となる性を買う側、これには何の処罰規定がありません。日本ではこの売春を性交と狭く定義して性交類似行為と区別をしておりますが、スウェーデンなどでは法律を改正して、性交も性交類似行為も性的サービスとしてその購入者を処罰をしております。
第五次男女共同参画基本計画では、第五分野の女性に対するあらゆる暴力の根絶の中で、この売春防止法の見直しも含めて検討を行うとしております。日弁連なんかは、二〇一三年に、この売春防止法の第五条、これが、売買春をなくすことにつながらないばかりか、性産業の現場における被害を顕在化しているとして削除を求める意見書も出されております。
この第五条を始めとして、この性交に狭く限定している第二条の売春の定義、買う方の買春者を処罰するなど、こういう見直しは検討をされているんでしょうか。
○政府参考人(吉田雅之君) 御指摘の第五次男女共同参画基本計画における売春防止法の見直しを含めた検討としては、令和四年に困難な問題を抱える女性への支援に関する法律が成立し、同法の附則の規定により、売春防止法第三章及び第四章が廃止され、売春防止法の見直しがなされたところでございます。
その上で、御指摘の処罰の在り方に関する検討に関して申し上げますと、今御指摘がありましたとおり、売春防止法では、「「売春」とは、対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交することをいう。」と定義され、また、第三条においては、売春する行為とその相手方となる行為がそれぞれ禁止された上で、これらの行為そのものは処罰の対象とされていない。他方で、売春が人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良な風俗を乱すものであることに鑑み、売春の周旋等が処罰の対象とされているというところでございます。
御指摘のありましたような売春あるいは買春の定義を改めたり新たに規定したりする、あるいは買春者、買った方を罰することとすることについては、買う側の行為ゆえに性的搾取が助長されるなどしている実態がどの程度あるのか、また、性を買う側の行為の処罰としては、児童買春等禁止法において、十八歳未満の児童について、対して対償を供与するなどして性交などをしたときには罰することとされているわけでありますけれども、そのような児童ではなく成年に対するものを処罰する場合に、その保護法益をどのように考えるのか、また処罰の対象とすべき行為を明確に、また過不足なく規定することができるかといった点について慎重に検討していく必要があるものと考えております。
○井上哲士君 まあいろいろ言われたんですけど、買う側の行為がどれだけ助長しているのかとかいうお話がありました。
若い女性たちを守ろうとアウトリーチに取り組む支援団体がこう訴えているんですよね。新宿や渋谷などの繁華街では、毎晩百人以上のスカウトたちと百人以上の買う方の買春者が子どもたちに声を掛けている実態があるため、この強引な客引きの取締りを度々行政に要請してきたが、まともに取り合ってもらえないと。警察は女性たちを補導し、非行問題として処罰的に扱うばかり。警察が捕まえるべきなのは、女の子たちではなくて、買春する男たちや性売買にあっせんする業者だと訴えているんですね。私も全くそのとおりだと思うんです。
改めてお聞きしますけれども、例えば、今の売春防止法の下で、女性側がですよ、この売春を勧誘する、何万円でどうですかと、これは処罰の対象になるのに、相手の男の方が何万円でどうかと声を掛けても、こういう行為は処罰できないわけですよね。これはやっぱりどう考えても私はおかしいと思うんですよ。本当に女性の人権ということを考えたときに、きちっとやっぱりその買う側の処罰ということに踏み込まないと問題の解決にならないと思いますけれども、改めて、法務省、いかがでしょうか。
○政府参考人(吉田雅之君) 今御指摘のありました売春防止法の第五条の規定というのは、公衆の目に触れるような方法での勧誘や客待ちなどを処罰対象とするものでございますけれども、これは、売春の行為そのものの違法性に着目したものというよりも、そうした行為が社会で行われることによる風紀の乱れというようなものに着目したものというふうに理解しております。
その上で、先ほど申し上げたように、買春者を処罰するということになりますと、その実態を含めて十分に検討する必要があるというふうに考えておりまして、児童の場合には児童買春等処罰法で既に処罰対象とされているわけでございますけれども、成年、自らの判断で行動ができるとされている人についてその買春行為を処罰するという場合に、保護法益をどう考えるのか、あるいはそれとの関係で処罰対象とすべき行為をどのように規定していくべきなのかということについて慎重に検討していく必要があるのではないかというふうに考えております。
○井上哲士君 売春防止法自身が、本当、戦後、一九五六年制定、公娼制廃止後の性産業者の取締りのために制定されました。ですから、やっぱり今のようなこの女性のこのいろんな地位の向上の問題であるとか、それから、当時はやはり専らこの治安とか、そういうことでやられてきた法律なんですね。やっぱり改めてきちっとそこを見直して、この性売買、性搾取を厳格に禁じて、違反した業者、買春者を処罰する内容に抜本的に改正すること抜きに問題の根本的解決はないんじゃないかということを指摘しまして、質問を終わります。
内閣委員会(風営法改正案)
2025年4月 3日(木)