○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
法案は、児童虐待を行った保護者に対して可能とされている面会又は通信の制限について、保護者が児童虐待を行った疑いがあると認められる場合も可能とします。
これまで、虐待疑いの場面の面会、通信制限は行政指導で行われてきましたけれども、今日午前中もありましたように、保護者側が面会制限を不服として訴訟をするというケースも多く見られるなど、その判断には非常に困難さが伴います。
こども家庭庁の一時保護ガイドラインでも、面会、通信制限は、子どもと保護者等の関わりを制限するという子どもにとって影響の大きい決定であることから、子どもの意見又は意向を把握するため、あらかじめ意見聴取等を行うべきとされております。
一時保護や一時保護中の面会、通信制限が、子どもの最善の利益を考慮し、専門家の意見も聞いて行われることは大前提ですが、こうした判断を適切にするに当たって、児童福祉司や児童心理司、児童指導員を始めとする児童相談所一時保護部門の職員の果たすべき役割は大変大きいと思いますけれども、大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(三原じゅん子君) 一時保護を行うかどうか、又は一時保護中の子供に関し保護者との面会、通信を制限する必要があるかどうかについては、子供の安心、安全と最善の利益の観点から、子供の意思や気持ちを尊重した上で適切に判断されるべきものと考えております。
このため、今回の法改正におきましては、一時保護中の面会、通信について、制限を行う場合、制限を解除する場合のいずれにおいても子供に意見を聞かなければならないこととしております。
一時保護の決定時も含めまして、子供の意見を聞く際には、委員御指摘のように、児童相談所や一時保護施設の専門職である児童福祉司、児童心理司等がチームを組んで対応し、子供の気持ちに寄り添いながら、現状や今後の見立てなどを丁寧に説明して子供の意見を聞くこととしており、さらに、子供の年齢や状況によっては、言葉だけでなく表情ですとか身ぶり等から意向を酌み取ることとしてございます。
こうした取組を実施する上では、議員御指摘の専門職である児童福祉司を始めとした児童相談所の職員の果たす役割はとても重要であると。児童相談所における体制整備とともに研修などによる職員の質の向上にも努めて、しっかりと子供の安心、安全、そして最善の利益を第一に、適切に制度が運用されるようにしっかり対応してまいりたいと考えています。
○井上哲士君 児童福祉司などが大変重要な役割を担うという答弁でありました。
今もありましたけれども、しかし一方で、その児童福祉司の八割以上が定年退職以外の理由で退職して、心身の不調、業務内容、量等に対する悩み、不満等がその理由になっているとされております。
四月二日付けの日本経済新聞に、「児相の一時保護所 逼迫」という記事が掲載をされました。一時保護をためらわない児相が増え、解除も慎重に判断するようになったため、都市部を中心に定員を上回る一時保護所が目立つと報じております。全国百五十四の一時保護施設の中で平均入所率が一〇〇%を超えている施設が都市部を中心に二十六あると報道しておりました。
三月二十六日に、千葉県市川市の児童相談所の元職員が、過酷な労働環境だったとして、県に未払分の賃金や慰謝料などを求めた裁判の判決が千葉地裁でありました。判決では、児童相談所の労働環境は、職員の心身の健康を損なうおそれがあり、安全配慮義務に違反すると認めました。
市川の児童相談所の一時保護施設の平均入所率は一三六・六%なんですね。この元職員の方は、研修もないまま、着任の翌日から日勤、夜勤二交代で勤務をした。子どもの数に見合う職員が配置されておらず、異動や退職した同僚の補充もなく、気になる子どもを見かけても、声を掛ける時間もゆとりもなかった。夜勤では、トラウマを抱え眠れない子どもの対応に加え、緊急保護で入所してくる子どもの対応や電話対応があったと。子どもたちが寝ている部屋の前の廊下に布団を敷いて仮眠を取ると、こういう毎日だったというんですね。もう着任して四か月後に重度のうつ病と診断され、休職をせざるを得なかったという方なわけであります。
このように、本当に児童相談所の労働環境の改善は急務だと思うんですね。児童福祉司の増員については、政府も、新たな児童虐待防止対策体制総合強化プランによる取組で一定の増員は図ってこられました。ただ、現状では、まだまだケアを必要とする子どもたちに十分手が届くような体制になっているとは言い難いと思います。
しかも、今回の法改正で、虐待疑いの場合の面会、通信制限も可能にするわけですから、入所期間が長くなるほど定員を上回る施設が一層増加することが予想されます。一時保護施設の拡充、一時保護委託先の開拓とともに、職員の増員、定着を図るための研修の充実や体制整備、更に強化する必要があると思いますけれども、大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(三原じゅん子君) 都市部の一時保護施設におきまして定員超過の状況にあるということは承知しております。
児童福祉法上、一時保護の期間は原則二か月を超えてはならないとされていることから、今般の面会、通信制限等の改正によって直接的に一時保護が長期化することはないものと考えていますが、いずれにせよ、虐待等により傷ついた子供に対して適切なケアを行っていくためには、現状の定員超過の状況を解消して、保護されている子供が安心して安全に過ごせる環境を整備していくこと、これも重要であると考えております。
こうした観点から、こども家庭庁においては、都道府県が一時保護施設を整備する場合や一時保護委託先の開拓を行う職員を配置した場合の財政支援を行うとともに、一時保護施設の環境改善に向けた取組も進めているところでございます。
一時保護施設の環境改善に向けては、令和四年の児童福祉法改正により、一時保護施設に関する設備運営基準を定めることとし、職員の配置基準ですとか居室面積等の設備基準を設けるとともに、国としては、子供のケアを図る職員を配置した場合、財政支援、そして施設の管理者や職員に二年に一回受けるよう求めている研修の実施支援などを行っているところでございます。
先ほど来委員から御指摘あります職員の大変な重責によるメンタルなケアですとか、そうしたものの重要性というのは私どももしっかり承知をしているところでございますので、そうしたことに関しましても取り組んでまいりたいというふうに思っております。
○井上哲士君 二か月を超えることがないというお話ありましたけど、そこのぎりぎりまで制限をする人が増えますとやっぱり全体としては定員を上回ることになるわけでありますから、一層の対応の強化を求めたいと思います。
次に、法案は、保育士不足の解消のために、これまで国家戦略特区に限って認められていた地域限定保育士制度を全国展開します。そもそもこの制度によってなぜ保育士不足が解消をできるんでしょうか。
○政府参考人(藤原朋子君) お答え申し上げます。
地域限定保育士制度は、保育士が不足するおそれが特に大きい地域が集中的に保育人材確保に取り組むことができるよう一般制度化するものでございます。本制度によりまして、通常の保育士試験等のみでは地域の保育士需要に対応できない都道府県等が独自に追加的な受験規格を設けることにより、その地域内で保育人材を増やすことが期待をされます。実際に、平成二十七年度以降実施をいただいている神奈川県と大阪府では、地域限定保育士試験の実施も寄与し、保育士登録者数が全国平均を上回るペースで増加をするといった結果も見られたと承知をしております。
その上で、保育人材の確保は全国的な課題でありますので、これまでも、処遇改善、資格の取得支援、就業継続のための環境づくり、再就職の促進、魅力向上など、保育人材確保に向けた取組を総合的に進めているところであります。今回の地域限定保育士制度とともに、こうした総合的な取組を引き続き進めることで保育人材の確保に取り組んでまいります。
○井上哲士君 元々年一回だったこの保育士の試験は、もう二〇一七年度から全ての都道府県で年二回実施されているんですよね。ですから、地域限定保育士制度をつくったときの目的は達成されているんじゃないかと私は思うんですね。なぜこれを今全国展開をする積極的な意味がどこにあるのかと。
この申請の場合には試験実施方法書が必要でありますけれども、これには、保育士以外の者として必要な知識及び技能を有するかどうかを判定するための試験の科目、方法等を記載することとなっております。なぜこの保育士以外の者と規定をするんでしょうか。
○政府参考人(藤原朋子君) 通常の保育士が全国で勤務可能な資格であるのに対しまして、地域限定保育士は特定の都道府県等においてのみ保育士と同様に業務を行うことができるという点において違いがございます。この地域限定保育士と保育士は専門的知識及び技術をもって児童の保育等の業務を行う者である点では同じでありますが、さきに申し上げた違いがあることを踏まえまして、法技術的な観点になりますが、両者を別の規定、別の規定で規定をしているということになっております。
その結果、この試験実施方法書に関する規定の部分についてちょっと読み上げさせていただきますが、当該区域内において専門的知識及び技術をもって児童の保育及び児童の保護者に対する保育に関する指導を行うことを業とする保育士以外の者としての知識、技能というふうな規定になっておりまして、そういう意味では、法技術的な観点からこのような規定になっておりますが、いわゆる地域限定保育士にとって必要な知識や技能についての方法書を作成いただいて、これを内閣総理大臣が認定をするという仕組みを規定しているわけでございます。
なお、実際の資格取得に当たりましては、受験者から見ますと、保育士、いわゆる通常の保育士の方は、指定試験機関に申請をして、試験合格後は受験地の都道府県の登録を受けるということになりますし、地域限定保育士も、基本的には同じように指定試験機関に申請をし、合格後は受験地の都道府県の登録を受けることになります。
このため、資格取得を希望される方にとっては特段手続が複雑になるといったことはないと今考えておりますけれども、具体の運用における配慮など、今後施行までの間に都道府県等に周知をしていきたいと思っております。
○井上哲士君 丁寧な答弁ありがとうございます。もうちょっと簡潔に答弁いただきたいと思うんですね。
結局、同じとおっしゃいますけど、先ほども価値がどうなるかとか保護者から見てどうかということがありました。結局、この全国展開を無理やり進めようとする結果、保育士の国家資格要件をわざわざ複雑にすることになっているんじゃないかと思います。これ、それ幾らやっても、私は、保育士の資格取得者を増やしても、専門職にふさわしい処遇が確保されなければ保育士の確保は進まないと思うんですね。
処遇改善に必要なことは公定価格の人件費単価の抜本的な引上げや保育士の配置基準の更なる改善だと考えますが、大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(三原じゅん子君) 処遇改善につきましては、令和六年度補正予算で一〇・七%の大幅な改善を実施しまして、令和七年度予算でもこの財源を確保した上でこれを反映しておりまして、平成二十五年度以降では累計で約三四%の改善を図り、他職種と遜色ない処遇の実現というものを目標に掲げさせていただいているところでございます。
また、配置基準の改善につきましても、令和六年度から四、五歳児の配置基準改善するとともに、七年度予算において一歳児についても五対一という新たな加算、これを設けております。
引き続き、こども未来戦略に基づいて、更なる処遇改善、配置改善等を努めてまいりたいというふうに思います。
○井上哲士君 先日も指摘しましたけど、実際には独自の配置をしているものですから、こういうものが実際の職員の皆さんの大きな賃上げに結び付いていないという実態があるわけで、一層のこの公定価格の引上げや配置基準の更なる改善を強く強く求めておきます。
さらに、この現行の小規模保育事業に加えて、三から五歳児を対象とする新たな小規模保育事業を認めるという問題です。
これに関して、二〇二二年十月二十四日の国家戦略特区ワーキンググループヒアリングで、厚労省はこう述べているんですね。小規模保育事業の待機児童の解消という所期の目的に照らしますと、現在の待機児童の状況は平成二十九年当時とは全く異なる状況、また、保育全体の在り方ということでいいますと、依然として集団保育、三歳以上の子どもについてはできるだけ集団の中で育ちを促していきたいという重要性は引き続き重視していきたいとして、現時点においてこの特区措置を全国展開すべきではないと明確に当時厚労省は述べているんですね。
にもかかわらず、なぜ全国展開するんですか。
○政府参考人(藤原朋子君) お答え申し上げます。
三から五歳児のみの小規模保育事業については、待機児童の解消を目的として、平成二十九年から特区における特例措置として実施をしてまいりました。成田市、堺市、西宮市、三市がこの対象区域というふうになっておりまして、これまで特段の弊害などは確認されていないところであります。
御指摘の令和四年の十月の特区ワーキングでは、当時の厚生労働省から、待機児童が大幅に減少していることを踏まえ、特区措置を全国展開すべきではない旨意見を述べたものと承知をしておりますけれども、同じ会の中で、ワーキングの委員の方からは、保護者や家庭の判断を尊重すべきであり、特例措置の全国展開は選択肢を増やすものであるということで再度検討をすべきというふうな意見があったという経緯がございました。
その後も、特区の基本方針では、特例措置の活用から一定期間が経過をし、特段の弊害のない特区の成果は重点的に全国展開していくといった方針に基づき検討が進められた結果、令和五年六月の規制改革実施計画におきまして、三から五歳のみの保育を可能とする特例の全国展開が盛り込まれたものでございます。
これを踏まえて、子供の保育の選択肢を広げる観点から、今回、法改正により、三から五歳児のみの小規模保育事業を全国展開することとしたところでございます。
○井上哲士君 三歳以上の子どもについてはできるだけ集団の中で育ちを促していきたいと、これが重要だと言っているんですよ。特段弊害がないというお話じゃなくて、集団保育確保することが重要だということを当時言われていたわけですね。結局、営利企業の参入の拡大などを優先をした、こういうことだと言われても私は仕方ないと思うんですね。
多様な子どもにふさわしい保育環境を確保することは全く否定をしません。しかし、小規模保育事業は、市町村に保育の実施義務を課す児童福祉法第二十四条第一項には位置付けられておりません。ですから、公的責任や財政負担が不十分なのが現状なわけですよね。
この小規模保育事業がどのような経営実態にあるのか、こども家庭庁としては把握をされているんでしょうか。
○政府参考人(藤原朋子君) 御指摘いただきました小規模保育事業所の経営実態につきましては、令和六年度に実施をいたしました幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査、この中で、令和六年三月時点の保育事業収益、児童福祉事業収益等の収益の状況ですとか、人件費、事業費などの支出の状況の把握を行っているところでございます。この中で、昨年十二月にこども家庭審議会の分科会においてお示しした速報値の数字になりますけれども、収支差率についていえば、A型で八%、B型で七・六%、C型一〇・五%、こういった収支差率が確認できております。
○井上哲士君 全体の数だけおっしゃったんですけど、営利企業の参入による保育園の中には、人件費を低く抑えて利益を上げているのがあるんです。それがそういう数に出ているんですよ。しかし一方では、小規模という特性を生かしていい保育をしようとしている事業所は、本当に様々な困難に直面をしています。
全国小規模型保育連絡会が行った小規模保育事業のアンケートでは、延長保育や給食費の補助など、公立認可保育園には適用される補助金等が対象外になっている地域が九割に上がると、こう言っているんですね。こういう問題の解決こそが求められていると思いますけれども、改めていかがでしょうか。
○政府参考人(藤原朋子君) 小規模保育事業のマクロの収支差率だけではなく、様々な分布ですとか収支差率、それから給与の問題、指摘がございました。
この四月から経営情報の見える化がスタートいたします。費用及び収益の内訳について施設、事業者から都道府県知事に報告をいただいた上で、個別の施設、事業者単位ではございませんけれども、グルーピングした分析ですとか集計結果として収入に占める支出の状況等を公表することとしております。こういったことを活用しながら、小規模保育事業などの経営状況の詳細の把握について取り組んでいきたいというふうに考えております。
○井上哲士君 時間ですので終わりますが、保育所の設置基準では、満二歳以上の幼児を入所させる場合、幼児一人につき一・九八平米とされておりますけど、小規模保育のA型の場合、これはあくまでも参酌基準であって、従うべき基準じゃないんですよね。結果としてやはり最低基準を下回るようなことが許されると、こういう施設がつくられるということはあってはならないと思います。そのことを指摘して、終わります。
内閣委員会(児童福祉法改定案)
2025年4月17日(木)