国会質問議事録

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内閣委員会(能動的サイバー防御二法案 参考人質疑)

○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 今日は、参考人の皆さん、本当に貴重な御意見をありがとうございます。
 まず、齋藤参考人にお聞きいたしますけれども、お配りいただきました日弁連の意見書でも、通信の秘密等に対する侵害可能性ということを書いておられます。この取得した通信情報の分析、利用については、意思疎通の本質に関わる情報以外の情報を対象にするものとされていると、しかし、そのような情報であっても、送信先や受信先次第で、また、他種の情報と組み合わせた場合に通信の秘密等に対する侵害可能性が払拭されないということを書かれておりますけれども、これ、もう少し具体的にお話しいただけますでしょうか。
○参考人(齋藤裕君) ありがとうございます。
 やはり、誰と付き合っているか、誰と交流しているのかというのは、もちろん公にしている場合もあるでしょうけど、やはり知られたくないということも多いんだろうと思うんですね。特に性的マイノリティーの方なんかについては、例えば、じゃ、同性の恋人とやり取りしているとか、そういう情報というのは余り知られたくないだろうと思うんです。あるいは、まあほかにもあるでしょうけど、例えばその性的マイノリティーの方がよく見るようなサイトとかにアクセスしたというのは、別に犯罪でも何でもないですけれども、しかし、そういうのはやはり知られたくないんだろうと思うんですよね。
 それはメールの中身が分からなくても、じゃ、どういう仲間とやり取りしているか、そしてどういうサイトにアクセスしたか、そういうことが分かること自体がその人の思想、信条を、あるいは性的指向とかそういうものを示すということは十分あり得るわけですから、今回の法案で問題となっているのは、通信の本質的内容に関わらないからといって決して軽視できるようなものではないというふうに思っております。
○井上哲士君 その上で、そういう情報が目的外使用ができるということが大変問題だということから先ほど来お話があるわけですけど、それに対して私もこの前質問したんですけど、あくまでも機械的な情報に限られていて、その中にはこのサイバー攻撃と関係のないユーザーの情報などが含まれることはないと、だから、このサイバー防御の目的以外に通常使われないとか、そういうものを想定しているとか、こういう言い方をするわけですけれども、絶対ないとは政府も言わないわけですよね。
 例えば、岐阜の大垣警察署などが個人情報を収集して提供していて、名古屋高裁で違法の判決が出たわけですけど、そういう事態を見ますと、こういう目的外使用が、絶対に不当に使われないということは私はあり得ないんじゃないかと思っているんですけれども、そういうこの目的外使用の、対する政府の姿勢、この法案についていかがでしょうか。
○参考人(齋藤裕君) ありがとうございます。
 まさに政府そのように答弁していると思いますけれども、例えば、法案の二十二条、自動選別の実施ということで、二項ですね、ごめんなさい、二十二条の二項で自動選別をする場合の基準ということで、一号で、当該対象不正行為に関係がある送信元又は送信先であると認めるに足りる状況のある電気通信設備のIPアドレス等というふうにされているわけですけれども、例えば、じゃ、踏み台として利用される、自分の犯罪とかサイバー攻撃をしていないけれども、踏み台として利用されるということは誰しもあり得るのではないかと思うんですね。そのときに、じゃ、その人がパソコンなりサーバーが踏み台にされてしまった、で、その、じゃ、IPアドレスをキーに検索して通信情報を選別できるんだというふうにこの二十二条の二項というのは読めると思うんですよね。
 だから、もちろんその政府の意図としてはサイバー攻撃に関わるものだけ抽出しようとしているんだということになるのかもしれないけど、踏み台として利用されているような人の情報も併せて取得される可能性もあるんだろうと思います。
 ですから、もちろん国民の大部分を監視するということはできないかもしれないけど、踏み台に利用されたような人の個人情報、通信情報が取得される、で、いろんな弾圧なりに利用される可能性というのは決して払拭できないだろうと思っております。
○井上哲士君 ありがとうございました。
 その上で、目的外利用について上沼参考人にもお聞きしたいんですけれども、先ほどの最初の御意見の中で、通信の秘密に関してというこの五ページのところで、通信の秘密の制限により実施される利益の方が大きい、通信の秘密で守られる利益よりもその制限により実現される利益が大きいという場合に目的に照らして必要な限度の制限をするんだと、こういうお話だったと思うんですね。
 そうしますと、この場合の目的というのは、まさにこのサイバー攻撃を防ぐ、それによる重大な被害を防ぐという目的だからこそ一定の制限が必要だという理屈になると思うんですけど、だったらその目的外利用というのは、この通信の秘密を制限をするというのは、私ちょっと理屈としては成り立たないんじゃないかなと思うんですけど、その辺りは有識者会議でどんな議論になったのか。政府は、想定していないとか、通常はこうだと言うんですけれども、そういうことはやっぱり絶対ないと言えない以上は、これむしろやっぱり禁止をするということにした方がすっきりすると思うんですけれども、いかがでしょうか。
○参考人(上沼紫野君) ありがとうございます。
 最初に申し上げたとおり、通信当事者の同意がある場合には、まず通信の秘密の秘密性が除外されるという前提がありましたので、それでいうと、通信当事者が同意した範囲では使えるというふうに考えることになります。
 ですので、その目的外利用というか、ここでいうその選別後通信情報の使える範囲というのが極めて限定されていて、その対象不正行為というものに関するものに限ってしまうので、そうすると、結構、本来サイバーテロってどこから起こるか分からないみたいなところが若干あるわけで、持永参考人からもおっしゃっていただいたようにですね、それを考えると、限定するということが、余りに限定するということが、じゃ、本当にいいのかという話も出てくるわけです。
 今回のその同意のあるところについては、同意をしているというところを前提に、その同意がある場合に同意の範囲で使ってもいいでしょうという話なので、なので、そうであればそこに限定はなくてもいいんじゃないのと。実際に、ここの通信当事者の同意に関して言うと、通信当事者の同意があれば、実は選別後通信情報じゃなくて、もっと生情報だってもらえるわけなんですよね。その話をしていないんです、逆に言えば。ここでは選別後通信情報というある程度もうフィルターが掛かった後の情報の話だけの話をしていますので、そういう意味でもここは謙抑的な条文になっているんじゃないかなというふうに私は個人的には思っています。
○井上哲士君 その当事者の合意といっても、実際にメールとかやっている本人ではなくて、その事業者の当事者ですよね。そこが合意したからといって、現実のその個人の皆さんからいえば、しかもこの協定については必ずしも公表しないということになっていますから、自分の知らないうちに個人情報が使われるということになるんじゃないかと思いますけれども、上沼参考人、それから齋藤参考人、もう一度今の点お願いします。
○参考人(上沼紫野君) その通信当事者の同意の話でいうと、その事業者の同意なんですけど、これ、外内と内外通信なので、通信の相手が国外のそういう、何というんですかね、サーバーだったりなんだりだったりということを想定しているわけなんですね。なので、それでいうと、そのこっち側の人たちというか、国内の個人の方の情報というのをここの情報で問題なんじゃないかということは余り考えにくいのかなと個人的には思っています。
 元々の通信の秘密の一方当事者の同意の話でいうと、元々、両方国内であったとしても、片っ方が同意していれば、その片っ方の人が言っちゃうことあるでしょうという話で片っ方の同意でいいですという話なので、それから考えても本件の規定というのは抑制的なんじゃないかなというふうに思っているところです。
○参考人(齋藤裕君) ありがとうございます。
 まず、国外の方からの通信だというお話なんですけど、例えば海外にサーバーがあるサービスを利用して国外から通信が、日本にいる人についても国外から通信がなされる、国内の事業者に通信がなされるということもあるので、まあこれは別に日本人が対象外になるということではないと思っています。
 もう一つは、いや、そもそも、じゃ、外国人の人権は守らなくていいのかという話だと思うんですよね。日本国憲法のその適用対象は日本にいる人だけかもしれませんけど、でも、自由権規約で通信の秘密は保護されるわけで、すべからく世界の人の通信の秘密は保護されるわけですから、ですから、日本人は関係ないからいいという話ではないだろうと思っています。
 そして、最後ですけれども、同意があれば通信の秘密は考えなくていいみたいな法理が一般的だとは決して思っていません。必ずしも通信に関わるものではないですけど、コミュニケーション過程において一方当事者が同意をしたら他方当事者の同意がなくても合法なのか違法なのかということについては学説上いろんな議論がありまして、今お話があった原則合法論というのもありますけど、原則違法論というのもあります。
 その中で、じゃ、最高裁がどのように判断しているのかというのは今回の資料でお示ししましたけれども、昭和五十六年の最高裁決定、そして平成十二年の最高裁決定ということで、まあ一定の要件があった場合に初めて一方当事者の同意だけで合法というふうな判断を最高裁が示しているわけですから、ちょっと最高裁の判断を離れた理論的なことを言っても余り意味がないだろうと。やはり最高裁の基準に照らすと、必要性、具体的な必要性がある場合、あるいは他方当事者も、ああ、自分の通信が取られているんだなというふうに予見できるような場合以外は一方当事者の同意があるから合法になるということではないだろうと思っております。
○井上哲士君 続いて、アクセス・無害化措置について酒井参考人にまずお聞きしますけれども、先ほど来の議論で、いわゆるこのアクセス・無害化措置が武力行使に当たるのかについて、一般的には、論では様々な議論があって、具体的な当てはめだというお話があったと思うんですね。これは衆議院の参考人質疑でも、国際法上、武力の行使について普遍的に合意された定義はないと、その上で、日本の行為を武力の行使だと批判する国が出てくることは理論的には否定できないという、これ参考人質疑での御意見があったんですが、これ、こういうことでよろしいでしょうか。
○参考人(酒井啓亘君) ありがとうございます。
 武力行使、ユース・オブ・フォースの定義について、一般国際法上決まった敷居というものがあるかどうかというのは大変難しい問題です。例えば、一国内の争乱状態で行われる警察行為が、例えばそこに国外からの反乱、反政府勢力などが関与した場合に、じゃ、そこに武力の行使というのが生まれるのかといったような極めて難しい問題というのがやっぱり国際社会には起きるわけですね。そういった極めて、何というんですかね、限界事例みたいなものを考えていくと、安易に、武力の行使はこのレベルで、それ以下であれば武力の行使に当たりませんよというような普遍的な合意がなされているというのは言えないというのが現実だと思います。
 ただ、その場合に考慮要因になるのはやはり、どの程度の被害が生じるのかとか、どういう手段が使われているのかとか、いろいろな考慮要因があって、これは武力の行使に当たるでしょうね、あるいはこれは武力の行使には当たらないでしょうねというような判断がなされるんだと思うんです。
 本件、この法案で想定されているアクセス・無害化措置というのは、基本的には被害を出さない、損害を生じさせないということを前提に組み立てられていると承知していますので、その意味では、どこにその武力行使の定義の敷居があるにせよ、その措置が武力行使の敷居を越えることはないというふうに考えられているんじゃないかというふうに個人的には思っています。
○井上哲士君 その上で、この国際法上にその違法性が阻却される事由の話も先ほど来ありました。これ、酒井参考人、齋藤参考人にもお聞きしたいんですけど、このタリン・マニュアル二・〇が議論になってきました。日弁連のこの意見書にも書かれておりますが、このタリン・マニュアルでは、国の根本的な利益に対する重大で差し迫った危険と利益を守る唯一の手段である場合というふうになっているんですね。
 ところが、この警職法改正案では、そのまま放置すればということで、この差し迫った危険ということではありません。それから、人の生命、身体又は財産に対する重大な危害が発生するということで、国の根本的な利益ということも違うんですね。かつ、この緊急の必要があるときということで、この差し迫った危険を守る唯一の手段としているタリン・マニュアルとも、私、いずれも違うと思うんですよね。
 ですから、タリン・マニュアルと比べましても、この法案で書かれていることはこの違法性の阻却は認められないんじゃないかと思いますけれども、いかがでしょうか。
○参考人(酒井啓亘君) ありがとうございます。
 さきにも申し上げましたけれども、この警職法の新しい第六条の二の特に第二項というのは、私自身は必ずしも、その国際法上の緊急状態をそのまま要件化して、その要件をその法律の下、国内法の下に落としたということではないというふうに考えています。
 ただ、もちろんその法令の中に明らかに国際法に違反するような文言あるいは要件が書き込まれていたら、それ自体、まあ法律が違法になるか、あるいはその法律に基づいた実行が違法になるかはともかくとして、国際違法行為が生じ得る可能性が高いわけですから、その内容についてはやはり国際法に合致した内容にしなければいけないということだろうと思います。
 その限りでこの第六条の二の第二項というのは書かれているわけであって、繰り返しで恐縮ですけれども、それ以外に、その上にと言った方がいいですかね、その上に国際法上の緊急状態の要件がかぶってくるということであって、国際法上の要件の方が実は厳しいということになって、対外的に国際社会において非難を受ける場合には、その国際法上の要件をクリアしなければその非難には耐えられないということで濫用が抑えられているというふうに国際法上は考えられているというふうに理解しています。
○参考人(齋藤裕君) ありがとうございます。
 今、日弁連の意見書を御指摘いただきましたけど、この十ページの辺りにその関連のところが書いてあるんですけど、三月十九日の衆議院内閣委員会で、飯島審議官の方で、マルウェアの感染を発見し、いまだ発動していないが、C2サーバーと定期的に通信を行っていることが認められるため、攻撃者の意図次第でいつでもサイバー攻撃が行われると認められる場合というのがその無害化措置が行われるケースとして挙げられているわけです。
 その注のところに書いてありますけど、中村和彦国際法局長の方の著作を見ますと、自国の重要インフラのシステム内にマルウェアが侵入していることが確認されたが、そのもたらす損害、侵害等が全く判明していない段階で国際法上の義務に違反し得るハックバック等を行うことについては、急迫性の要件を満たすと説明することは困難と思われるというふうにされているわけですね。
 ですから、ちょっと中村さんがおっしゃっていることと対比するとかなり政府の要件というのは緩いだろうと。警職法に書かなくてもほかのいろんな要因で国際法を守るんだというお話なんですけど、ただ、少なくとも今の政府答弁は、どう考えても緊急避難の要件についてはかなり甘く見ているんだろうと思っているんですよね。そのような政府の姿勢プラスこの警職法の緊急避難の要件を踏まえていない条文を足して考えると、やはり緊急避難の要件を満たさない無害化措置をやっちゃうリスクがあるんじゃないかというふうに私は懸念しています。
 ですから、ちゃんと緊急避難の要件は書き込むべきだろうと思っています。
○井上哲士君 時間ですので、ありがとうございます。
 持永参考人、質問できなくて申し訳ありませんでした。
 ありがとうございました。

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