国会質問議事録

ホーム の中の 国会質問議事録 の中の 2025年・217通常国会 の中の 内閣委員会(能動的サイバー防御二法案)

内閣委員会(能動的サイバー防御二法案)

○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 アクセス・無害化措置を規定した警察官職務執行法及び自衛隊法改正についてお聞きします。
 法案は、警職法第六条の二を新設し、警察庁又は都道府県警察の警察官から警察庁長官が指名するサイバー危害防止措置執行官がアクセス・無害化措置を実施するとしております。
 衆議院では、このアクセス・無害化措置について、即時強制として行われると答弁をしております。警職法では、この即時強制について、第四条、避難等の措置、第五条、犯罪の予防及び制止、第六条、立入で規定をしています。この六条では、避難や犯罪の予防等で危険な事態が発生し、人の生命、身体又は財産に対し危害が切迫した場合において、その危害を予防し、損害の拡大を防ぎ、又は被害者を救助するため、やむを得ないと認めるときは、合理的に必要とされる限度において他人の土地、建物又は船車の中に立ち入ることができると定めております。
 憲法三十五条は令状主義を定めております。捜査機関が行う強制処分について、あらかじめ裁判官のチェックを受け、令状の発付を受けなければ許されないとしておるわけですね。
 一方、この立入りは令状なしで実施されるけれども、令状主義には反しないとされておりますけれども、これはなぜでしょうか。
○政府参考人(逢阪貴士君) お答えいたします。
 憲法第三十五条は、住居への立入りについての令状主義を規定しておりますが、同規定は直接には刑事手続に関して行われる住居への立入り等を規制するものと承知しております。
 他方、その他の行政手続についても、その性質や目的、強制の態様、目的と手段の均衡や合理性の有無等によっては令状主義の保障が及ぶことがあると解されているものと承知しております。
   〔委員長退席、理事磯崎仁彦君着席〕
 この点、警職法第六条第一項に基づく立入りは、危険な事態が発生した場合に専ら人の生命、身体又は財産を保護することを目的に行うものであって、刑事責任追及のための資料の獲得に直接結び付く作用を一般的に有するものではありません。また、緊急やむを得ないと認める場合に合理的に必要と判断される限度で行うものであります。
 こうしたことから、令状によることを要しないこととしても、憲法の趣旨に反するものではないと解されていると承知しております。
○井上哲士君 コンメンタール、注釈、警察官職務執行法でも、危害が切迫した緊急やむを得ない場合ということが要件とされております。
 一方、このアクセス・無害化措置を規定した警職法第六条の二は、「そのまま放置すれば人の生命、身体又は財産に対する重大な危害が発生するおそれがあるため緊急の必要があるとき」とされており、やはり令状は必要とされておりません。
 しかし、この規定は、現行の警職法第六条の立入りにある「危害が切迫した場合」という文言が欠落をしております。なぜこの切迫の要件を外したんでしょうか。
○政府参考人(逢阪貴士君) お答えいたします。
 警察官職務執行法第六条は現実空間を前提とした条文であり、危険な事態が発生し危害が切迫した場合に関する規定であるのに対し、改正後の警職法第六条の二は被害の瞬時拡散性などの特徴を持つサイバー空間を前提とした条文であり、サイバー攻撃をそのまま放置すれば重大な危害が発生するおそれがあるため緊急の必要がある場合に関する規定でございます。
 両者は適用される場面が根本的に異なるものでありますので、単純な用語の違いだけをもって両者の要件を比較して論じることは適当ではないと考えております。
○井上哲士君 単純な用語の違いを言っているんじゃないんですよ。具体的な中身なんですね。
 同じ即時強制として行われるわけです。その立入りの要件の危害の切迫性について、コンメンタールではこう言っているんですね。危険な事態が発生するだけでなく、更に当該危険な事態に起因して人の生命、身体又は財産に対する危害が切迫していることを要するとしているわけですね。
 ところが、この六条二は、同じ即時強制でありながら、危害がいまだ発生していないと、発生するおそれの段階でアクセス・無害化措置が可能としてあって、大幅に緩和されているんですね。これでは警察の恣意的な判断による濫用に道が開かれるんじゃないかと思いますが、いかがですか。
○政府参考人(逢阪貴士君) 繰り返しになりますけれども、警職法六条の二は被害の瞬時拡散性などの特徴を持つサイバー空間を前提とした条文でありまして、サイバー攻撃をそのまま放置すれば重大な危害が発生するおそれがあるため緊急の必要がある場合に関する規定であります。
 緊急の必要があるときというその趣旨は、いつサイバー攻撃が敢行されてもおかしくない状況にあることであります。そのような状況であればまさにアクセス・無害化措置をとる緊急の必要があるということで、更に危害が切迫している等の要件を加えることは適当ではないと考えております。
○井上哲士君 そのまま放置すればということとまさに危害が切迫をしているというのは、私、大分違うと思うんですね。そういう要件なしに規定しているということは、警察官の権限行使の濫用を許さないとする警職法の趣旨を逸脱して、現場の警察官の権限を拡大する令状主義に反するものだと言わざるを得ません。
   〔理事磯崎仁彦君退席、委員長着席〕
 この問題は、海外のサイバーに対するアクセス・無害化措置において、国際法との関係でも重大な問題になります。先ほど来からも質問があるわけでありますが、国際的に参考にされているタリン・マニュアルでは、国家は根本的な利益に対する重大で差し迫った危険を示す行為への反応として、そうすることが当該利益を守る唯一の手段である場合に緊急避難を理由に行動できると、こうしております。
 しかし、この警職法の第六条の二の規定は、このタリン・マニュアルが規定している、この国家の根本的利益への危険、重大で差し迫った危険、唯一の手段と、こういう規定はないんですね。タリン・マニュアルよりも非常に幅広く解釈することが可能になっておりますけれども、なぜこういう規定にしたんでしょうか。
○国務大臣(平将明君) まず、改正警察官職務執行法第六条の二の規定は、国外に設置されている電子計算機に対する措置のみを定めるものでなく、国内に設置されている電子計算機に対する措置も含むものであります。
 その上で、国外に設置されている電子計算機に対するアクセス・無害化措置については、そもそも国際法上禁止されていない合法的な行為に当たる場合や、サーバー所在国の領域主権の侵害に当たり得るとしてもその違法性が、違法性を阻却できる場合があります。
 委員が指摘されているような緊急状態は、あくまで違法性を阻却する必要がある場合に援用する可能性がある法理の一つとして想定しているものであり、今般の措置をとるに当たって常に緊急状態を援用することを想定しているわけではありません。
 いずれにせよ、外務大臣との協議により、国際法上許容される範囲内で措置を行うことを確保することとしています。
○井上哲士君 アクセス・無害化措置は、主権侵害とみなされ、そして相手国が武力行使とみなす場合もあるわけですよね。で、この緊急避難要件の幅広い解釈を可能にして、それに基づく措置が行えることになっていく、そうした危険性を、私、高めることになると思うんですね。
 更に具体的に聞きますけれども、タリン・マニュアルは、この重大で差し迫った危険としており、危害が及ぶ時間が接近しているということを要件に挙げております。
 一方、この第六条の二は、緊急の必要があるときにとどまっております。これについては衆議院での答弁では、マルウェアに感染を発見し、いまだ発動はしていないものの、C2サーバーと定期的に通信を行っていることが認められるため、攻撃者の意図次第でいつでもまさにサイバー攻撃が行えると認める場合としております。つまり、この危害が及ぶ時間が接近していなくても緊急性の必要が認められる、アクセス・無害化措置を実施するということになるわけですよ。
 しかし、先ほどの中で、この時間の近接性を要件とする国際法上の緊急避難を適用して違法性を阻却する場合があると言いますけれども、この規定ではそれはできないんじゃないですか、成り立たないんじゃないですか。
○国務大臣(平将明君) アクセス・無害化措置については、そもそも国際法上禁止されていない合法の、合法的な行為に当たる場合や、サーバー所在国の領域主権の侵害に当たり得るとしてもその違法性を阻却できる場合があります。
 すなわち、委員が指摘されているような緊急状態はあくまで違法性を阻却する必要がある場合に援用する可能性がある法理の一つとして想定しているものであり、今般の措置をとるに当たって常に緊急状態を援用することを想定しているわけではありません。
 御指摘のいわゆるタリン・マニュアルは、サイバー行動に適用される国際法に関する研究の成果として専門家によって作成された文書であると承知をしています。
 いずれにしても、緊急状態を援用する際には、国家責任条文第二十五条の要件に照らし、個別具体的な状況を踏まえて適切に判断していくこととなります。
 その上で、国際法上の違法性阻却に関しては、改正警察官職務執行法第六条の二の条文の要件のみで判断するものではなく、個別具体の要件ごとに判断すべきものであり、外務大臣との協議により、国際法上許容される範囲内で措置を行うことを確保することとしているため、御指摘は当たりません。
○井上哲士君 繰り返しになりますが、現にこの主権の侵害とみなされ、相手国が武力行使とみなす場合があり得ると、そういう危険性があるわけだからこそ、きちっと私は法的に縛りを掛けていく必要があると思うんですね。
 今回のこの六条二の規定にこの危険、危害が及ぶ時間が接近していると、こういう要件がないということは、令状主義に反しないと言えるための緊急やむを得ない、他に手段がないという要件も、国際法上違法性が阻却されるための必要な要件も、どちらも満たしていないということを言わざるを得ません。
 次に、この警職法の改正の内容と日本の警察の在り方の問題、これ大きく変えるという点でも看過できないという問題についてお聞きいたします。
 この警察法の第二条第一項は、「警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当たることをもつてその責務とする。」としております。
 この警察の責務という条項でありますが、ちょっと聞き方変えますが、この警察の責務の任を執行するのは都道府県警察であって、警察庁はこれを指導監督、調整する役割だということでよろしいですか。
○政府参考人(逢阪貴士君) お答えいたします。
 警察法第二条の規定については、今御指摘のとおり、警察の責務について規定しております。
 令和四年の警察法改正に伴いまして、警察庁の所掌事務に重大サイバー事案に対処するための警察の活動が加わりまして、関東管区警察局においてその執行的事務を担っているところであります。警察法第二条に規定された警察の責務は、その意味で警察庁も負っているものと考えております。
○井上哲士君 今言われた警察法の改正には、我々は警察の組織原則を変えるものとして反対をいたしました。
 言わば、戦前戦中の警察が政府の意向によって国民の人権や自由を侵害してきたと、こうした中央集権的な国家警察への反省から、現行の警察法が警察の民主的管理と政治的中立性の確保を大義として、都道府県警察が捜査を行い、警察庁は指導監督を行うとして、警察庁が国家公安委員会の民主的統制の下に置かれるというふうにしてきたと。二〇二二年の警察法改正はこれに反するものとして行われたと思います。
 今回の法案で、この警察庁の警察官もサイバー危害防止措置執行官に指名できるとしていると。本来警察の責務を負わないこの警察庁、その警察官をこの執行官に指名できるようにするということは、まさに現行の警察組織の原則を大きく変更することになるんではないですか。
○政府参考人(逢阪貴士君) お答えいたします。
 都道府県警察がそれぞれの管轄区域について警察の責務を有することについては、先ほどの令和四年改正の前後において変更はなく、現在も犯罪捜査などの活動は原則として都道府県警察が行い、その上で警察法に規定する警察庁の所掌事務について警察庁長官が都道府県警察を監督しているところであります。
 令和四年の警察法改正によって、重大サイバー事案について国の組織が直接対処を行うことができるようになったところというのは先ほど申し上げたとおりですけれども、警察法第二条に規定された警察の責務はその意味で警察庁も負っているところであり、御指摘は当たらないと考えております。
○井上哲士君 都道府県警察が捜査を行って、警察庁は指導監督を行うというのは、先ほど申し上げたような戦前の反省からの基本的な原則なんですね。
 今回のこの改正で、この警察庁の警察官一個人にアクセス・無害化措置の権限を与えて、さらに、海外サイバーへのアクセス・無害化措置は、サイバー危害防止措置執行官に指名された警察庁の警察官に限定をされるということになっているわけでありますから、私は、基本的に警察庁の警察官が警察の責務を負わないとしてきた警察組織の原則を事実上大きく変更していく、更に踏み出すものだと言わざるを得ません。
 さらに、防衛省、お聞きしますが、この自衛隊法改正案の第八十一条の三第三項では、内閣総理大臣は、この通信防護措置をとることを自衛隊に命ずることができ、自衛隊と警察庁、都道府県警察が共同して通信防護措置を実施するとしております。
 この場合、現場の指揮は誰が行うのかと。この通信防護措置は、自衛隊が対処する特別の必要がある場合に内閣総理大臣の命令によって自衛隊が実施するということになっております。それを警察が共同して実施をすることになりますと、内閣総理大臣の命令で警察が動くということに実態的になっていくんじゃないですか。
○政府参考人(家護谷昌徳君) 我が国に対する重大なサイバー攻撃による被害を防止するという観点からは、我が国が持てる能力を最大限発揮することが重要です。
 こうした考え方の下、政府としては、今回の法案により、内閣総理大臣から自衛隊に対する通信防護措置の発令があった場合には、自衛隊が警察と共同して措置を行うこととしています。この際でございますけれども、自衛隊は、内閣総理大臣による通信防護措置に関する命令に基づきまして、防衛大臣の指揮により活動することとなっております。他方で、警察は、国家公安委員会の管理の下、警察庁長官等の指揮を受け、措置を実施することになっております。
○井上哲士君 しかし、なぜ自衛隊がこれをやるかというと、自衛隊が対処する特別の必要がある場合ということで、通常は警察でやるところを自衛隊がやるわけですよね。今警察は国家公安委員長の下と言われましたけど、実態上、現場では一体となって、警察が自衛隊の指揮の下に置かれることになっていくんじゃないですか。
○政府参考人(家護谷昌徳君) それは、防衛省・自衛隊におきましても、警察におきましても、指揮命令、厳格に守っておるということになりますので、別々の指揮命令の下で実施がされるということになります。
○井上哲士君 別々の指揮命令の下でそういうことが現場でできるのかと、甚だ疑問なわけでありますけれども、私は実態を見る必要があると思うんですね。
 大臣、お聞きしますけども、このアクセス・無害化措置は、総理が議長の国家安全保障会議が対処方針を立案し、国家安全保障局次長を兼務する内閣官房の内閣サイバー官が司令塔機能を発揮し、その下で実施されるということになるわけですね。そのまさに警察法の体系と全く異なるやり方でこの措置が行われることになるんですよ。そこに警察が参加をしていくということは、結局、総理大臣の命令一下で動く新しい警察組織が誕生していくということになるんじゃないですか。いかがですか。
○国務大臣(平将明君) アクセス・無害化措置については、まず国家安全保障会議、NSC四大臣会合において速やかに議論し、対処方針等を定めることとしています。その上で、内閣官房に設置する新組織が、サイバー安全保障担当大臣の指導に基づき国家安全保障局、NSSと連携をして総合調整を行い、実施主体たる警察や自衛隊が警察庁長官及び防衛大臣の指揮と監督により個別のアクセス・無害化措置を行うことになります。
 このように警察が行うアクセス・無害化措置については、内閣総理大臣の指揮に基づき行われるものではなく、公安委員会の管理の下、警察庁長官等の指揮を受けて行われるものであり、警察法の体系と異なる、明らかに異なる新しい警察組織が誕生することにほかならないとの御指摘は当たらないものと考えております。
○井上哲士君 個別に措置を行うと今言われましたけど、一つの組織なんですよ。それを個別に行うということが果たしてあり得るのかと。警察庁が国家公安委員会の民主的統制の下に置かれて、警察の責務は都道府県警察が負うとしている現行の警察法の原則を変質させる、事実上の国家警察の復活につながるものだということを指摘をして、終わります。

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