○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
会派を代表し、いわゆる能動的サイバー防御二法案に反対の討論を行います。
法案は、サイバー攻撃の実態把握を理由に、インターネットを介する国民のあらゆる通信情報を政府が通信の当事者である国民に無断で取得することを可能とします。憲法が保障する通信の秘密を侵害し、本来、本人の同意がなければ目的外利用や第三者提供が認められない個人情報を政府の都合で収集、利用することを可能とするものであり、断じて認められません。
政府は、国、基幹インフラ事業者等の重要な機能をサイバー攻撃から守るという高い公共性があること、他の方法によっては実態の把握、分析が著しく困難である場合に限って通信情報の利用を行うこと、一定の機械的な情報のみを自動的な方法により選別して分析すること、独立性の高いサイバー通信情報監理委員会が審査や検査を行うことなどから、通信の秘密に対する制約が公共の福祉の観点から必要やむを得ない限度にとどまると説明しています。しかし、審議を通じて、こうした政府の説明が破綻していることは明らかになりました。
通信情報の取得とその利用について、電話傍受と通信の秘密に関する最高裁決定は、犯罪の捜査上やむを得ないと認められるときに電話傍受が許容されるとしています。外外通信など、同意によらない通信情報の取得には、こうした通信情報を取得、分析しなければ実態把握が困難といったやむを得ない事情が要件とされています。
ところが、当事者協定による通信情報の提供にはこのような要件がありません。政府は同意による任意の提供だからと言いますが、提供される情報には、協定当事者のウェブサイト等にアクセスしている多くの国民の通信情報も含まれています。しかし、協定を結ぶのは政府と事業者で、当事者協定を締結したことを公表する規定もありません。国民は、同意を求められることもなく、自らの通信情報が一方的に政府に取得されるのです。
分析される情報は自動選別されたIPアドレス等の機械的情報であって、コミュニケーションの本質に関わる情報は消去されるといいます。しかし、自動選別され、政府に利用される情報には、送受信者のメールアドレス、送受信日時や携帯電話の番号、LINEのアカウントなど、通信当事者に直接結び付く情報が含まれます。しかも、どのような基準で自動選別されるかについて、具体的には明らかにされませんでした。
市民の個人情報を無断で収集し、第三者へ提供した岐阜県大垣警察による市民監視事件では、名古屋高裁が警察の行為を違法と断じました。このような違法行為を通常の警察業務として日常的に行っている警察庁、都道府県警察に対して、本法案によって自動選別された通信情報が提供されることになります。
そもそも裁判所の令状を取らなければできなかった通信情報の取得が、令状もなしに警察に提供されるのです。これは、憲法第三十五条の令状主義に縛られない新たな制度の創設であり、極めて問題です。しかも、政府は、刑事訴訟法の手続を経れば、この通信情報を犯罪捜査に利用することも可能と認めています。国民監視に利用されるとの懸念も全く払拭されていません。
また、当事者協定に基づく通信情報を自動選別した選別後通信情報は、協定当事者の同意があれば、重要電子計算機に対するサイバー攻撃の被害を防止するという目的以外にも利用を可能とする規定まで盛り込まれています。
この目的外利用について、政府は、協定当事者の同意の範囲内、重要電子計算機に対する不正な行為による被害を防止するという法目的の範囲内にとどまると言います。しかし、協定当事者の同意は、政府が意図する具体的な利用目的等について協定当事者に同意を迫るものにほかならず、事実上の強制と言わざるを得ません。法目的の範囲内と言えば、政府のさじ加減で政府が自由に利用できることになります。
取得の対象外とされている内内通信についても、今後取得する可能性を政府は否定していません。国民の通信情報を政府が取得できる仕組みが一旦でき上がれば、通信情報の範囲や利用がどんどん緩和されていくことは目に見えています。そのことは、総理大臣による会員の任命は形式的とした日本学術会議法の解釈を政府が勝手に変更し、意に沿わない会員候補者の任命を拒否したことを見れば明らかではありませんか。
これらのことを踏まえれば、本法案が通信の秘密の侵害を最小限にとどめるものだとは到底言えません。
法案が、警視庁の警察官をサイバー危害防止措置執行官に指名し、裁判所の令状も必要とされない即時強制として、国内、海外のサーバーを問わずアクセス・無害化措置を実施させることも問題です。
戦前戦中の警察が政府の意向によって国民の人権や自由を侵害してきた中央集権的な国家警察への反省から、現行の警察法は、警察の民主的管理と政治的中立性の確保を大義として、捜査などの警察の責務は都道府県警察が担い、警察庁は都道府県警察を指揮監督することとしてきました。
ところが、本法案によって、警察の責務を負わないとされてきた警察庁の警察官にアクセス・無害化措置を実施させることになります。警察法の定める警察組織の原則を逸脱するものです。
さらに、自衛隊と警察が共同してアクセス・無害化措置を行う通信防護措置は、総理が議長の国家安全保障会議が対処方針を立案し、国家安全保障局次長を兼務する内閣官房の内閣サイバー官が司令塔機能を発揮し、その下で実施されることになります。これは、警察法の体系とは異なる、総理大臣の命令一下で動く新しい警察組織の誕生にほかならず、まさに国家警察の復活に道を開くと言わざるを得ません。
法案が、警察と自衛隊が、憲法と国際法が禁じる先制攻撃に踏み込むことを可能としていることも重大です。
国際社会は、サイバー行動に国連憲章を含む既存の国際法が適用されるという点では一致しています。しかし、適用される国際法上の具体的な権利義務の内容については、その適用を広く考えるべきだという国々と、国際法がサイバー行動に適用される範囲を限定しようという国々が併存している状況にあります。こうした下で警察や自衛隊が海外サーバーにアクセス・無害化措置を行えば、相手国から主権侵害と受け止められる可能性は否定できません。
しかも、法案では、平時、有事にかかわらず、自衛隊が在日米軍へのサイバー攻撃に対してアクセス・無害化措置を実施するとしています。日本が直接攻撃を受けていないにもかかわらず、アメリカと交戦状態にある相手国に対してアクセス・無害化措置を実施すれば、相手国から日本の先制攻撃と受け止められる可能性は極めて高まります。日本を戦争に巻き込むような本法案は、到底容認できません。
サイバー行動に適用される国際法に関する日本政府の基本的な立場では、サイバー行動が関わるいかなる国際紛争も、平和的手段によって解決されなければならないと表明しています。本法案でアクセス・無害化措置を可能とすることは、こうした日本政府の立場に反して、意図しない武力行使やエスカレーションといった重大な結果をもたらす可能性を拡大することにつながりかねません。
以上述べまして、反対討論とします。(拍手)
本会議反対討論(能動的サイバー防御二法案)
2025年5月16日(金)