国会質問議事録

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本会議(日本学術会議法案)

○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 会派を代表して、日本学術会議法案に対し、坂井大臣に質問します。
 まず指摘しなければならないことは、二〇二〇年十月、当時の菅総理が会員候補者六名の任命を拒否した問題です。
 総理大臣による任命が形式的であることは、国会で答弁され、確定した法解釈です。にもかかわらず、政府は、内部の勝手な検討で、国会にも示さず、推薦のとおりに任命すべき義務があるとまでは言えないと解釈を一方的に変更し、六名の任命を拒否しました。
 解釈変更に関し、日本学術会議事務局と内閣法制局との間で行われた検討過程を示す文書の黒塗り部分の開示は、内閣委員会での理事会協議事項となったまま、実現していません。一方、東京地裁は十六日、不開示部分の内容は、内閣総理大臣による会員の任命権ないし任命拒否権の限界を考えるに当たり有用な資料だとし、開示を命令する判決を下しました。
 不開示部分には、任命拒否できる場合の判断基準、要件等が記載されていると推察され、本法案で総理大臣が監事、学術会議評価委員、新法人設立時の会長職務代行者、設立委員の指名や委任を行う場合の基本となる考え方と密接に結び付くものであり、不開示のまま法案の審議に入ることは許されません。政府は直ちに控訴を取り下げ、開示するべきです。
 現行の学術会議法の解釈を勝手に変更し、違法な任命拒否を行いながら、その経過も理由も明らかにしない政府に本法案を提出する資格はないのではありませんか。答弁を求めます。
 大臣は、衆議院で、特定なイデオロギーや党派的な主張を繰り返す会員は、今度の法案の中で解任できると驚くべき答弁をしました。優れた研究又は業績があるとして選ばれた会員を政治信条を理由に解任するなど、極めて重大です。ここに、気に入らない科学者は排除するという政府の本音が現れているのではありませんか。この答弁は即刻撤回すべきです。
 安保法制が強行された二〇一五年を機に、政府は軍需産業振興に大きくかじを切りました。その年に防衛装備庁が発足し、大学等に研究を委託する安全保障技術研究推進制度がつくられました。それに対し、政府による研究への介入を指摘し、慎重な判断を求めたのが二〇一七年の学術会議の「軍事的安全保障研究に関する声明」です。以降、政府は学術会議への介入を強め、二〇二〇年の任命拒否の上、本法案が提出されました。
 本法案は、学術を軍事に動員し、短期的で実用的な経済的利益の獲得に貢献させるため、学術会議から独立性、自主性、自律性を奪い、時の政権の意に沿う別組織につくり替える学術会議解体法案にほかならないことは明らかではありませんか。答弁を求めます。
 このことは、本法案が現行法にある前文を削除していることに如実に示されています。
 前文は、科学が文化国家の基礎であるという確信に立って、科学者の総意の下に、我が国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と協力して学術の進歩に寄与することを使命とすることをうたっています。学術会議法は、戦前の政府が学術を政治に従属させ、学術の側も戦争遂行に加担したとの痛苦の反省の上に、国内の科学者の手で法案要綱が起草され、国会による審議を経て成立したものです。前文の科学者の総意の下にとの文言は、学術会議の独立性、自主性、自律性のよりどころにほかなりません。
 大臣は、現行法の理念は本法案に引き継がれていると言いますが、科学者の総意は法案のどこに引き継がれているのですか。
 四月十五日の学術会議の総会決議は、学術会議の合意もないまま、科学者の代表により起草された現行法を廃止し、日本学術会議の理念や組織の骨格を定める内容の法案を政府が提出したことは遺憾と言わざるを得ないと厳しく批判しています。学術会議の同意もない法案を提出すること自体が、科学者の総意を否定するあからさまな政治介入ではありませんか。
 別に法律の定めるところにより内閣府に置かれる特別の機関とされてきた学術会議は、本法案により、その組織及び運営に関する事務が内閣府の所掌事務に位置付けられ、政府の監督の下に置かれます。さらに、法案は、運営助言委員会、日本学術会議評価委員会、監事、選定助言委員会など、学術会議の組織、運営、財務、会員選考に幾重にも政府や学術会議外の者が介入する仕組みを定めています。政府はこの法案が学術会議の独立性、自律性を高めるものと言いますが、管理、監督の仕組みをこれだけ張り巡らせて、なぜ独立性、自律性が高まると言えるのですか。
 学術会議は、これらの仕組みが、近視眼的な利害に左右されない独立した自由な学術の営みを代表するアカデミーの活動を阻害するもので、到底受け入れられないと表明しています。そのような法案をなぜ押し付けるのですか。政府は、学術会議の活動を阻害したいのですか。お答えください。
 総理大臣任命の監事及び評価委員会の設置、中期目標、中期計画の法定、次期以降の会員選考への特別な方法の導入、選定助言委員会の設置という学術会議が到底受け入れられないとした五つの内容について、政府はどう対応したのですか。その結果、学術会議の懸念は完全に払拭されたのですか。
 その国の学者、科学者の代表して、社会と政府に対し科学的見地から助言を行い、学術の国際活動に参加し、世界的にも連携して世界の学術と社会の発展に貢献するナショナルアカデミーの役割は、政府からの独立が確保されてこそ発揮されるものです。学術会議が政府から自立した存在であるということが国際的な信用を得ることにもつながっている、他国のアカデミアは、学術会議の意見を日本政府の意向を反映した意見ではなく中立的な意見として聞いてくれる、それを政府が管理してしまったらアカデミアとしての信用は失墜してしまう、この指摘をどう受け止めるのですか。
 学術会議という科学者コミュニティーへの政府の介入は、学問の自由を乱暴に踏みにじるものです。思想、信条、表現の自由などとは異なり、学問の自由は、個々の科学者の研究、発表、教授の自由の保障に加え、科学者の相互批判と検討を可能とする科学者集団の自律的な規律があってこそ保障されます。
 大臣は、本法案が学術会議の会員である者が個人として有している学問の自由に影響を及ぼすものではないと答弁していますが、科学者コミュニティーには学問の自由の保障は及ばないのですか。お答えください。
 会員の選任は、学術会議の自主性、自律性の要です。ところが、法案は、会員以外の科学者から学術会議総会が選任する選定助言委員会を設置し、会員の選定方針に意見を述べるとしています。会員候補者選定委員会の諮問に応じてなら、個別の会員選考に意見を述べることは否定されていません。
 学術的なギョウセイを審査し、優れた科学者を選考することは、その分野に通じた科学者以外には困難です。だから、現会員が次期会員を選任するコオプテーション方式は、世界のアカデミーで採用されている標準的な会員選考方式となっています。五人から七人という少数の選定助言委員会委員の意見が会員選考に反映される仕組みは、コオプテーション方針とは相入れないのではないですか。
 学術を軍事に動員し、目先の経済的利益の獲得に貢献させるため、学術会議を解体する本法案は廃案以外にありません。
 以上を述べ、質問とします。

○国務大臣(坂井学君) 井上哲士議員の御質問にお答えいたします。
 黒塗り部分の開示及び法案を提出する資格についてお尋ねがありました。
 御指摘の箇所は、内閣総理大臣による日本学術会議の会員の任命に関する考え方の検討途中の部分であり、情報公開法の不開示事由に該当すると判断したことから不開示としているものです。政府としては、当時の不開示決定は適法なものであると考えているため控訴したものです。
 法案審議との関係についてお尋ねがありましたが、この法案は、国が設置する法人として必要な規定を整備するものであり、国の機関である現行の学術会議について規定する現行法の解釈と関係はないと承知しております。
 会員の解任についてお尋ねがありました。
 会員の解任については、現行法でも、会員として不適当な行為があった場合、学術会議からの申出に基づいて、任命権者である内閣総理大臣が退職させることができることになっており、この法案により新設するものではありません。
 その上で、この法案では、会員の解任は、会員が学術会議の業務に関し著しく不適当な行為をしたと認める場合に限り、会員候補者選定委員会の求めを受けて、総会の決議により行うこととされています。すなわち、国が会員の解任に関与する仕組みにはなっておりません。
 私が五月九日の衆議院内閣委員会で述べたのは、政治的、社会的勢力や特定の外国勢力から独立して学術的な活動をしていただくというのが望ましいということは言うまでもない、特定のイデオロギーや党派的な主張を繰り返す会員は学術会議が解任できる、どのような場合が解任に該当する事由となるかについては学術会議において適切に判断されるべきであろうということです。
 このため、仮に政治的な中立性を疑われるようなことがあるなら、それが学術会議の業務に関する著しく不適当な行為に当たらないのかどうか、国民や社会にきちんと説明できるように、学術会議において自主的、自律的に適切に判断されるだろうということを申し上げたものです。
 学術会議解体法案ではないかとのお尋ねがありました。
 新法人の設計に当たっての基本的な考え方としては、独立した法人としての学術会議の自主性、自律性に配慮し、独立行政法人等のような人事、業務への国の関与を行わず、評価制度等を通じて業務の改善、活性化に関する法人自身の自律的なサイクルを整えるにとどめています。
 このため、新法人に対する内閣総理大臣の関与は他の法人の主務大臣の権限に比べて大きく限定しており、国が設立する他の法人のような人事、業務への国の関与はなく、内閣総理大臣は、法人の長の任命、目標の指示や計画の認可は行わないこととしています。したがって、学術会議解体法案という御指摘は当たらないと考えます。
 科学者の総意についてお尋ねがありました。
 七十六年前に科学者の総意の下に設立されたという基本的な在り方及び前文に書かれている設立時の理念は、我が国のナショナルアカデミーの基本理念として、時代の変化に合わせた形で新法、新法人に引き継がれていくものです。
 学術会議においても、四月十五日の総会における声明において、日本学術会議の理念と位置付けは変わらず存続する、これまでの歩みや取組を世界及び国内の社会課題の解決に寄与しつつ、学術の更なる発展のために自ら行動し、次世代へと引き継いでいくと宣言されているものと承知しています。
 学術会議の同意についてお尋ねがありました。
 繰り返しになりますが、有識者懇談会の最終報告書は、学術会議の会長等にも毎回参加していただき、三十三回の議論を積み重ねて取りまとめたものです。このような報告書の内容を踏まえ、学術会議とコミュニケーションを取りながら、学術会議にふさわしい固有の制度設計を行いました。
 四月十四日の学術会議総会では、学術会議の懸念に対してゼロ回答ではなかった、やり取りを通じて相当の内容を勝ち取ることができた、予算、活動面や会員選考の独立性など、一部の懸念については学術会議側の活動次第で問題にならない可能性もあるなどといった議論もあったと聞いております。
 このように、学術会議には、法人化及び法案自身に反対でないというところまで御理解いただいていると認識しており、引き続き丁寧に説明してまいりたいと考えております。
 学術会議の管理監督の仕組みについてお尋ねがありました。
 まず、国の機関から特殊法人に移行することにより、国から独立して職務を行うことが明らかになり、政府の方針と一致しない見解を含めて政府等に助言を行う機能を果たしやすくするとともに、海外アカデミーから見て、日本は政府組織だが独立性が保たれるのかなどという懸念が生じることがなくなります。学術会議だけで自主的、自律的に会員を選べるようになり、外国人会員を登用し、ダイバーシティーを高めることも可能になります。組織運営の自由度が高まり、海外アカデミーのような柔軟な活動や必要な体制強化が可能になり、外部資金を獲得する努力を通じて財政基盤の強化や活動の活性化にも資することになります。
 その上で、新法人の設計に当たっての基本的な考え方としては、評価制度等を通じて活動、運営の実施と改善に関する法人自身の自律的なサイクルを整えるにとどめています。
 選定助言委員会は、委員は総会が選任し、意見に法的な拘束力はなく、個別の選考について意見を言わないことから、学術会議が行う会員の選任に直接的な影響力を及ぼすものではありません。運営助言委員会は、その意見に拘束力はなく、会長の諮問機関にすぎません。監事の所掌事務は、国が設置する他の法人と同じもので、学術的な内容、価値に立ち入るものではありません。監査事項も他の法人と同様のものです。また、日本学術会議評価委員会は、自主性、自律性に配慮し、独立行政法人のように業務の評価を内閣総理大臣が直接行う代わりに、学術に関する研究の動向等に広い経験と高い識見を有する委員に専門的な見地から審議していただくために設けるものであります。
 以上のように、この法案は学術会議の独立性、自律性を抜本的に高めることになる機能強化を目的とするものであり、監事などの国が設立する法人が適正、適切に運営されるための仕組みも必要最小限のものになっております。
 学術会議の表明についてお尋ねがありました。
 有識者懇談会での議論の中で学術会議から御指摘のような意見の表明があったと承知していますが、四月十四日の学術会議総会では決議の提案者自身が、法案反対だとか法案を撤回せよというのではないと明確に述べており、学術会議には、法人化及び法案自身に反対でないというところまでは御理解いただいていると認識しています。
 いずれにせよ、この法案は独立性、自律性を抜本的に高めることによる学術会議の機能強化と説明責任の担保を図るものであり、アカデミーとしての自由な活動を阻害するようなものではありません。
 学術会議の件に対する具体的対応についてお尋ねがありました。
 監事については、その所掌事務を国が設立する他の法人と同じものとし、法人に対する忠実義務も課すとともに、常勤でなくてもよいこととしました。
 評価委員会については、意見を言う対象を自己点検評価書に記載されている自己点検評価の方法及び結果に限定し、学術会議の活動の学術的な価値を評価するものではないことを明確にしました。
 中期目標や中期的な活動計画については、国による目標の指示や計画の認可は行わず、活動計画も独立行政法人のような細かいものとはしないこととしました。
 会員の選考方法については、選定助言委員会が意見を言う対象を選定方針に限定する、つまり、各会員の個別の選考には意見を言わないこととしました。
 このように、この法案では様々な点で学術会議の意見や懸念を反映しており、学術会議には法人化及び法案自身に反対でないというところまで御理解いただいていると認識しております。
 アカデミーとしての国際的信用についてお尋ねがありました。
 法人化により学術会議の独立性が組織面でも明確となり、明確になり、政府とは別の法人である海外アカデミーと同様の高い独立性を有する組織になるものと考えています。
 先日、学術会議の元会長が述べられていたように、海外アカデミーから見て日本は政府組織だが独立性が保たれるのかなどという懸念が生じることもなくなります。会員の選任についても、内閣総理大臣による任命は行わず、海外アカデミーと同じように学術会議だけで自律的に選任できるようにして、会員の選任についても自主性、自律性を高めています。
 このように、この法案の目的は独立性、自律性を抜本的に高めることによる学術会議の機能強化です。学術会議の独立性が組織面でも明確になり、海外アカデミーと同様に政府とは完全に別な立場で活動できるようになるということを海外アカデミーに対してもきちんと説明していくことは大事なことだと考えています。
 学問の自由についてお尋ねがありました。
 憲法第二十三条に定められた学問の自由については、政府としてこれまで答弁してきたとおりに広く全ての国民に保障されたものであり、特に、大学における学問研究の自由、その成果の発表の自由、教授の自由を保障したものであると承知しています。
 その上で、この法案は、学術会議の会長等にも毎回参加していただいた有識者懇談会の最終報告書を踏まえ、独立性、自律性を抜本的に高めることによる学術会議の機能強化と説明責任の担保を図るものであり、我が国の科学者や学術会議の自由な活動を阻害するようなものではありません。
 選定助言委員会についてお尋ねがありました。
 この法案における選定助言委員会は、委員は総会が選任し、意見に法的な拘束力はなく、個別の選考について意見を言わないことから、学術会議が行う会員の選任に直接な影響力を及ぼすものではありません。
 その上で、有識者懇談会の報告書においては、学術会議の活動が国民から納得感を持って受け入れられるためにも、コオプテーションが適切に機能する前提としても、より良い選考基準や選考手続等の検討のために外部の意見を幅広く聞くこと、会員が仲間内だけで選ばれる組織だと思われないために外部に説明できるような選考の仕組みを整えることを国民との約束として制度的に担保することが必要であると提言されたものです。
 政府としては、報告書に沿って選定助言委員会を設けることとしたところであり、狭い範囲内でのコオプテーションは独善的な結果に陥る可能性があるということは学術会議自らも指摘しているところと承知しています。
 特定の思想の人たちを排除するような選考が行われてきたという懸念を払拭するためにも、選定の基準や方法を決定するに当たって外部の意見を聞くことを制度的に担保することは、学術会議が国民からの信頼を維持するために不可欠であると考えられます。

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