○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
今日は、四人の参考人、貴重な御意見いただきまして、ありがとうございます。
まず、川嶋参考人にお聞きいたします。
他の参考人から、国を代表するアカデミーは政府の中に基本的に存在していないというお話がありました。ただ、日本の場合は、戦前以来、歴史があるということはあるけれども、八十年もたって、もう政府の中にいる意味とかいろんなことが問われているというお話もあったと思うんですね。
もちろん、学術会議はこの八十年間、様々な自己改革もされてきたわけでありますけれども、前文の中にある、例えば平和的復興というようなことは、八十年たった今も大変重要だと思うんですが、これがなくなりまして、この間質問いたしますと、この平和的復興という言葉は経済の健全な発展に含まれているんだと、こういう話もあったんですが、今のやはり学術会議の持っているこの歴史的な意味とか、それが前文に込められたこととか、どのようにお考えか、まずお願いしたいと思います。
○参考人(川嶋四郎君) 御質問ありがとうございます。
まず、その前文の話に入る前に、国の中に日本学術会議が特別の機関として現在存在するという点について御指摘いただきました。私は、これは、日本国というものの歴史を考えた場合に、そしてまた、世界におけるナショナルアカデミーの位置付けを考えた場合に、非常に重要なことであると考えております。
なぜかと申しますと、諸外国の、先ほど挙げましたようなナショナルアカデミーというのは、もう十七世紀から存在しております。古い歴史を持っております。ところが、日本の場合には必ずしもそうではございません。まさに、日本国憲法の歩みとともに日本学術会議ができたと私は考えております。
そして、日本政府の中、内閣府の中にあるということの意味は、まさに、言わば、比喩的に言えば、学問に関する軍師を絶えず従えている。従えているという表現は従属的に聞こえるかも分かりませんけれども、諸葛孔明ですので、もう何でも言う。
なぜかといいますと、それがこの国を自由で民主的な、文化的な国家、平和国家に仕上げるための一番大事なことであると。つまり、諫言というのは、これはもういつも耳に痛いわけでございます。しかし、そういうこともきちんと評価をしながら国の政策というのを国民的な視点から、しかも科学的な知見をきちんと踏まえて実現していくと。いつでもそういうことができる組織というのを内部に持っている、言わば常に一定の安全弁。これは国家の品格であり、あるいは国家の度量であり雅量であり、これは日本国というものの非常に重要な私は一つの宝であるというふうに考えております。
これが先生の前半部分の御指摘に関係する陳述でございますが、後半部分、後半部分の政府の内閣府の理解は、まやかしだと私は思っております。
つまり、より普遍的な文言に変更したんだというふうな説明がこの条文の趣旨として政府は語っておりますけれども、なぜ文化であるとか平和であるとか、それが普遍的ではないのかという説明はなされていない。しかも、例えば平和的復興という言葉が時代遅れだということだったら、平和的発展と、こんなすばらしい言葉が日本語ではございます。
今、まさに私は、個人的には、日本学術会議は、本当に日本の中の小さな静かな村で、その村人たちが自分たちの生活、使命、これを粛々と営み、実現していた。そういうところに突然何か巨大な権力が押し込んできて、この村全体はもうなくなるんです、出ていってください、自主的にお金を集めて何とかやりくりをしてくださいというふうに言われているのと私は余り変わらないと思います。
したがいまして、私は、そもそも経済社会の健全な発展、これ私すごく大事だと思います。ところが、一国の経済的な健全な発展というのは、私はあり得ない、あってはいけないというふうに思います。そういう国があるかも分かりませんけれども、私は、あくまでも世界平和、平和の中での経済的な発展、国民のウエルビーイング、その中での経済的な発展。経済的な発展という裏には、格差社会というのは必ず発生します。そういうものを克服できるような平和的な発展、公正な社会の実現、これがまさに現在の日本学術会議だったら私は可能ではないかと考えております。
したがいまして、私は、前文が消えるというのは、恐らく承継性、つまり現在の日本学術会議と新たな日本学術会議、つまり、もうほかの団体は日本学術会議と名のってはいけないというふうに条文に書いておりますので、新たにできる日本学術会議、そういうものとは完全に切断をするという。
じゃ、なぜ切断をするのかというと、私、これいじめだと思います。なぜそういうふうにせざるを得ないかというと、これは、はっきり申し上げまして、任命拒否に徹底的に反対しているからでございます。
でも、不合理なことに、違憲、違法なことに反対しないで、あっ、もうその点はともかく、前向きにこれからは仲よく信頼関係を保ちながらやっていきましょう。まあ、それでいいという人もいるかも分かりませんけれども、私は、私が考える国民の多くの方々、やはり筋を通す、こういう人たちには恐らく理解はしてもらえない、信頼を勝ち取ることはできないというふうに思います。
したがって、前文が消えるということは、完全に新しいものをつくって、つくり変えちゃうと。それはどういうものかというと、政府依存型のナショナルアカデミーをつくるということの象徴的な表現がここに表れているんじゃないかというふうに私は思います。
ありがとうございます。
○井上哲士君 ありがとうございました。
次に、上山参考人にお聞きいたしますけれども、今のとも関わりまして、先ほど来、川嶋参考人や吉村参考人からは、この現在の学術会議は五要件を満たしていると。しかし、上山参考人の最初の陳述で、政府の中にとどまっている限り五要件は実現できないというふうに言われました。むしろ、法改正によってこの五要件がむしろ妨げられるというのがお二人の陳述だったわけであります。
有識者会議の最終報告書が取りまとめられたあの懇談会でも、学術会議の光石会長は、残念ながら日本学術会議がこれまで主張してきた点について完全に反映されていないと言われましたし、この間国会でも懸念は払拭されていないという答弁をされています。
こういう一連の御発言についてどのような受け止めていらっしゃるでしょうか。
○参考人(上山隆大君) 五要件の一つ一つが世界のどのナショナルアカデミーでも基盤になっているものかどうかと、これちょっとまず分かりません。日本学術会議が出してきたこの五要件なるものが、全ての各国のアカデミーがこの五要件をもってアカデミーの基盤だと考えているとは私は承知はしておりません。
その一つ一つは極めて妥当なものだというふうに思っています、アカデミーとしてはですね、妥当なものだとは思っています。ただ、その一つ一つを、特に私が挙げた二点ですけれども、厳密な意味で確保しようとすれば、政府の中にいることとはやっぱり矛盾するだろうと。具体的に言うならば、全ての活動の独立性ですね。独立性ということに関して言えば、政府の中にいることによって起こる様々な忖度、様々なある種の考え方というものが発生するだろうというふうには私は思いますね。だから、この五要件を厳密に組織として遂行していこうとするならば、必然的な方向性として、政府の中にいることは無為だというのが普通の結論になると思います。
問題は、出たときに果たして学術会議がここである五要件を満たせるだけの組織になれるのかどうか、それに対して政府がどのようなサポートをするのか、これは大きな論点だとは思います。そこは政治の力で、これを担保するためにはどのような資金的あるいは助言的なサポートをすべきかということをはっきりと言わなければいけないと思います。
したがって、この五要件を今のところ満たしているから、したがって政府の中にあるべきだという、その議論は私にはやっぱり理解はできないんですね。政府の中にいればこの五要件は厳密な意味では確保することはできないと私は思っています。
○井上哲士君 政府の中にいると忖度が働くということがあったんですけど、吉村参考人にお聞きしますが、過去様々な提言とか出されたときに、自分たちはこの政府の中にいる組織やからちょっとこれは言わぬとこうとか、そういう忖度をされたような事実があるんでしょうか。
○参考人(吉村忍君) 冒頭の私の参考人意見で述べましたけれども、学術会議が出した様々な意思の表出、多くのものをいろいろな形で受け止めていただいたり、あるいは無視されたり、あるいは物すごく強く反発されたりと、いろんなケースありましたけれども、まさしくそれが、そういうことが行われたということ自体が、しっかりと学術会議、ナショナルアカデミーとして、政府との、政治との忖度なしで審議してきた結果だというふうに私は理解しているところです。
○井上哲士君 テーマも含めて自分たちで選んでいるということもあると思うんですね。
それに関連しまして、法人化の必要性について、相原参考人から首相の会員任命権がなくなるということが一つのメリットとして言われました。これが独立性ということになるんですけど。しかし、今起こっていることは、そもそも、その首相の任命権というのは形式的なものだという国会の答弁があり、この法解釈があるのに、これを一方的に変えて、首相がこの任命権なるものを悪用して任命拒否したということが今問題になってきているわけですよね。その政府が出した法案によって学術会議の独立性が高まるというのは私大変矛盾に聞こえるんですけれども、その点いかがでしょうか。
○参考人(相原道子君) そういうことが起こってはいけないということは、私も皆様方と認識は同じなんです。これについて意見を言う場ではないので、そこはちょっと今差し控えさせていただきますが。
だから、今後そういうことが起こらないようにするためには、政府が任命権持っていてはいけないと思います。そういう意味で先ほど申し上げました。
○井上哲士君 ありがとうございました。
ただ、あくまでも学術会議が推薦をして公務員としての地位を与えるためには、この、いわゆる任命という行為がどうしても必要だけど、これを形式的だということでありますから、私は、今の学術会議の組織の在り方から言えば、大変工夫をされた、そして明確なことだなあと思っております。
その上で、更にお聞きいたしますけれども、この間、安全保障研究に関する学術会議の声明について、これ吉村参考人にお聞きしますけれども、何か、研究の自由を侵したかのような議論もありますが、私もあの当時、外交防衛委員会でいろいろ質問しましたけれども、むしろ、この、あの制度がむしろ学問の自由を侵す、それを守る立場からあの学術会議の声明はあったと思うんですよね。あの研究テーマの設定とか、研究の進捗管理とか、研究成果の知的財産権などで問題があるということから慎重な対応をそれぞれの大学に求めたということだと思うんですけれども、その辺の具体的な中身と、それから、しかも、何か学術会議に大学の研究を禁じるような機能や力があるわけでもないと思うんですけれども、その辺の、今言われていることについての御意見をお願いいたします。
○参考人(吉村忍君) どうもありがとうございます。
今御指摘いただいた内容というのは、軍事的安全保障研究に関する声明の話と、あと、最近、まあ最近と言っても二〇二二年ぐらいになりますけれども、学術会議の会長から当時の科学技術担当大臣に、小林科学技術担当大臣に出されたデュアルユース等に関する回答、で、さらに、それに関連して、二〇二三年の九月に出されました研究インテグリティーに関する提言という形で、ずっと実はいろんな形で続いてきております。
ただ、この間、一貫してあるのは、研究そのものの、いわゆるどんどんどんどん変遷しているわけですよね。特に先端的な科学技術研究、AIあるいは量子、そういったものそのものが本当にもう、すぐいろんな形で生活にも結び付いてくるし、あるいはその国の国力にも影響するというような、そういう関係がある中で、一方で、オープン化とか国際化も物すごい勢いで進んでくる中で、そうすると、研究をどうやって進めるかという視点だけではなくて、どういう形でそれに携わる研究者の自律性であるとか、あるいは研究者がそこで遭遇し得るリスク、これをどのようにマネジメントしていくのかということについてしっかりとした議論がない中では、本当にもう荒波の中に放り投げられたいわゆる研究者という形になってしまいますので、そういう観点から、まさしく、学術会議としては、その都度その都度しっかりとした議論をして、声明であるとかその意思の表出を出してきているところです。
ただ、一言申し上げますと、どうしてもその中のワンワードだけ取り上げてイエスかノーかという議論にすぐのせて、されてしまうんですけれども、例えば、デュアルユースであるとか研究インテグリティーに関して、提言の中ではどのようなリスクがあり得るかとか、あるいはそのためにはどういう対応をすべきかということがしっかりと実は盛り込まれて書かれていますので、むしろそれそのものを御理解いただいてむしろ活用いただくと、社会あるいは政治にでも活用いただくというのが本来の趣旨ですので、そういう意味では、そういう一連の大きな流れの中で、学術会議のこれまで取り組んできた考え、見解を御理解いただけるといいのではないかなというふうに思いました。
○井上哲士君 最後、時間ないので端的に川嶋参考人にお聞きしますが、法案でこの学術会議の業務以外の業務を行うことに罰則が科せられるわけですけれども、これについてどのようにお考えでしょうか。
○参考人(川嶋四郎君) 先ほども少し述べましたように、現在の日本学術会議の活動につきましてはこのような制約はないと。もちろん、犯罪行為を犯すというのはちょっと別ですけれども。
したがいまして、私はもうこれは非常に大きな萎縮効果が生じるのではないかなと思います。もちろん、解任の問題であるとか、守秘義務の問題であるとか、不適切な行為、言動、こういう問題、不正の行為の問題でありますとか、もういろんな網が張られておりまして、そういうことをも絶えず気にしながら活動をしていかないといけないという状況に私たちは置かれていると考えております。
ここもやはり問題になるのは、私たちは本業がございますし、その本業で例えば何か語るというようなことが実は日本学術会議に関係するようなことだったら、それは日本学術会議の活動とも関わるというふうに例えばこじつけられることなんかもございますし、絶えず本務と学術会議の活動というのを切り分けて話したり書いたりしなきゃいけないと思いますし、もう今まで以上の細心の注意を払わないといけない。それを会員になるときに最初にこういうことも課されますよということがきちんとインフォームド・コンセントされるのかどうか、これも大きな課題になるかなと思います。これは、会員になり手がいるのかどうかというような問題にも関わるかなと思います。
ありがとうございます。
○井上哲士君 どうもありがとうございました。
内閣委員会(日本学術会議法案の参考人質疑)
2025年6月 3日(火)