国会質問議事録

ホーム の中の 国会質問議事録 の中の 2025年・217通常国会 の中の 本会議(日本学術会議法案に対する反対討論)

本会議(日本学術会議法案に対する反対討論)

○井上哲士君 日本共産党を代表し、日本学術会議法案に断固反対の討論を行います。
 そもそも、内閣総理大臣による日本学術会議会員の任命が形式的なものであるという確定された法解釈を政府内部で一方的に変更し、それを根拠に六人の会員の任命を拒否したことは、明白な違法行為にほかなりません。法解釈変更の検討過程の行政文書の黒塗りを開示し、任命拒否の理由と経過を明らかにして政府自ら違法行為を是正することは、本法案審議の最低限の前提です。それもないまま本法案を成立させるなど、到底許されません。
 政府は、会員任命拒否に対する厳しい世論の批判の矛先を学術会議の在り方の問題にすり替えて本法案を提出いたしました。しかし、その狙いが日本学術会議を解体し、政府の言いなりになる組織にすることであることは、特定なイデオロギーや党派的な主張を繰り返す会員は今度の法案の中で解任できるという坂井大臣の答弁で浮き彫りになりました。この発言には、思想で会員を排除するのかとの怒りの声が湧き上がり、質疑の中でも答弁の撤回要求が相次ぎました。
 ところが、坂井大臣は、自らの答弁を正当化するために、特定なイデオロギーや党派的な主張を繰り返すということが望ましくないというのは衆議院からの審議の中でもコンセンサスが取れていると答弁をいたしました。許し難いねじ曲げです。一体どこにコンセンサスがあるというんですか。政府の気に入らない質問には聞く耳を持たない、存在すら認めないというものにほかなりません。まさに法案の本質を明らかにしているではありませんか。
 大臣は、学術会議が法案にも法人化にも反対していないと繰り返し答弁しました。しかし、学術会議の川嶋参考人は、大臣答弁は虚偽とさえ言えると厳しく批判し、ナショナルアカデミーの五要件を具備した法人化には反対しないが、五要件を満たしていない法案に反対しているからこそ総会で決議を可決したと明確に述べました。政府のごまかしの破綻は明らかです。
 一九四三年、科学研究は大東亜戦争の遂行を唯一絶対の目標としてこれを推進するとの閣議決定がされました。政府により学問研究の自由が奪われ、科学研究の目的は戦争遂行とされたのです。
 現行の日本学術会議法は、前文には、学術が政治に従属させられ、また、学術の側も戦争遂行に加担する役割を果たしたことの痛苦の反省が込められ、学問の自由を保障する日本国憲法に立脚した使命が書かれています。
 一九四九年の日本学術会議の発会式の祝辞で当時の吉田茂首相は、戦争を永遠に放棄し、平和的文化国家として新しい日本を建設することを決意し、科学の振興を通じて、世界の平和と人類社会の福祉に貢献するという国家的要請に応えて設立されたと述べています。そのために、時々の政治的便宜のための制肘を受けることのないよう高度の自主性が与えられている、こう吉田総理が述べているんです。
 二〇一五年の有識者懇談会の報告も、現在の制度は、日本学術会議に期待される機能に照らしてふさわしいものであり、これを変える積極的な理由は見出しにくいと結論付けています。学術会議の使命と、国の機関でありながら独立して職務を行うという組織形態には矛盾はありません。
 では、何が矛盾しているのか。
 政府は、二〇一五年、安保関連法を強行し、その年に防衛装備庁を設置し、安全保障技術研究推進制度を創設しました。その中で、学術会議への介入が強まり、二〇二〇年の任命拒否が起きました。さらに、二〇二三年には安保三文書を閣議決定し、敵基地攻撃能力の保有と一体で防衛産業を成長産業とすることが推進をされています。
 政府が本法案を提出したことは、科学を軍事に従属させ、目先の経済的利益追求に貢献させようという政府の立場が、科学者の総意の下に、科学を平和と人類社会の福祉に貢献させるという日本学術会議の憲法に基づく理念と矛盾しているからにほかなりません。
 そのことは、法案が現行法の前文を削除したことに示されています。政府は、前文の理念は法案の目的に置き換えられたとし、前文の平和的復興という言葉は法案の経済の健全な発展という目的に含まれているという驚くべき答弁をしました。まさに平和の理念を投げ捨てるものです。
 法案の運営助言委員会、日本学術会議評価委員会、総理大臣任命の監事、選定助言委員会等が学術会議の自律性、自主性を奪うための具体的な仕組みであることが審議を通じて明白となりました。
 会員選考に際し、会員で構成する会員候補者選定委員会が作成する選定方針案に、会員外の者で構成する選定助言委員会が意見を述べる、会員候補者選定委員会の諮問に応じて意見を述べるとしていることは重大です。
 政府は、選定助言委員会を設置する理由について、会員選考の客観性、透明性の確保などを挙げます。しかし、現に学術会議は、自ら会員選考の改革を進めてきました。外部の意見も取り入れ、会員候補者に求められる資質、専門分野の構成、候補者の多様性の確保のために、ジェンダーバランス、地域分布、活動領域や年齢構成等の観点を選考方法として定め、公表しています。
 どのような基準や方法で会員を選考するかは、そもそも学術会議自身が定めるべきものです。にもかかわらず、選定助言委員会を設置することは、政府による介入の仕組みをつくる狙いにほかなりません。会員候補者選定委員会が選定助言委員会に諮問しなければ、総理任命の監事から監査の対象にされるという答弁からも、そのことは明らかです。
 さらに、新法人設立時は、外部の有識者との協議を経て選ばれる外部有識者を含む候補者選考委員会が会員を選考し、その同じメンバーが三年後の改選時にも会員選考を行うという特別な会員選考の仕組みが設けられます。これにより、次期会員の選考に現在の学術会議会員が関与できる機会が極端に狭められます。
 これは、現行のコオプテーション方式による学術会議の自主的、自律的な会員選考の継続性を分断することにほかなりません。どれほど政府が説明しようと、独立性、自主性、自律性を根こそぎ奪い、学術会議を解体する法案の本質は覆い隠せません。だからこそ、学術会議は一貫して懸念は払拭できないと表明しているのです。
 この法案に反対し、学問の自由を守れという学協会や学会を始め、多くの科学者、それに連帯する市民の声は今なお広がり、今も会館前で行動が行われています。これは何をもってしても押さえ込むことはできません。
 運動の中で学問の終わりの始まりにするなというスローガンが掲げられましたが、昨日の委員会採決後には、あくまでも廃案を求めつつ、政府の介入を監視し、学問の自由を守り発展させる新しい運動の始まりと決意が述べられました。
 四月十五日の日本学術会議の総会決議は、「日本学術会議の理念と位置付けは変わらず存続し、そして、その先も、学術の振興を通じて文化を育み、平和で豊かな社会を作り、国民の安心して生き甲斐があり、健康で文化的な生活の維持増進に貢献していく。」と述べています。これは、日本学術会議のあるべき姿を宣言したものです。
 日本共産党は、日本学術会議のこの宣言を支持するとともに、学問の自由を守り、戦争する国づくりに反対する多くの科学者、市民と力を合わせ、これからも全力で闘い抜く決意を述べ、反対討論とします。

ページ最上部へ戻る